渡辺篤史の建もの探訪ー奥行き27m完全ワンルームの家(山﨑健太郎、株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ)

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建もの探訪ファン
感想: 

今年の元旦に引いたおみくじは、「一」の棒が出て「大吉」。
今年は我が家の家づくりも本格始動の予定なので、
なんだか嬉しい年の初め。
今年もよろしくお願いいたします。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「奥行き27m完全ワンルームの家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2016/1
建ものの斬新さ、住み手の洗練された暮らしぶりが素晴らしかった。
 
             ◇ ◇ ◇
 
145坪という豊かな敷地はたくさんの草木、花で包まれ、
その真ん中に建ものはあった。
前面が3枚のガラスの引き違い戸になった小さな箱が玄関。
小さな箱型の建ものだと思いきや、その箱の後ろには、
今回のタイトルにある「奥行き27m・・・」の通り、
たっぷり連なる平屋が隠れている。
 
庭を散策するように暮らす家。
玄関・ラウンジ、台所・食堂、寝室、洗面・浴室、書斎の5つの役割を
それぞれにもたせた5つの門型(四角いトンネル型?)をひと続きに並べ、
少しづつ交互にずらしてしてくっつけた形の建ものになっている。
門型(四角いトンネル型?)をずらした部分は、 緩やかに次のエリアへの入口となる。
その入口にドアはなく、タイトル通りの完全ワンルームだ。
門型をずらした部分で外に接する断面は、全面ガラス窓。
外に広がる庭の風景をいっぱいに内へ取り込める。
外の地面との高低差もほとんどないことで、外が本当に身近だ。
建もの内の各所には、ゆったりと枝葉を広げる大ぶりの観葉植物が置かれていて、
建ものの内部は、内側の庭とでもいうよう。
外の庭、内の庭が溶け合うようだった。
 
こんな形でのワンルームがあるということに楽しい驚きがあった。
そしてそれが、住み手である60代のご夫婦の暮らしにぴったりと寄り添うようで、
本当に芯の通った住みよさそうな家であった。
気も人もものも、滞らぬ清々しさも感じた。
感動だ。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
斬新さという点では、洗面・浴室は特に印象強い。
約10畳という広さのエリアに、浴槽、シャワー用の椅子、洗面台、
そして一組の小さなテーブルと椅子が置かれている。
浴室部分の床は少しだけ低くなっていて、洗面スペースとを分けている。
シャワーカーテンも引けるようだけれど、ほとんど使わないとのこと。
「お風呂」という構えた場所ではなくて、
一見すれば、ただの真っ白い部屋に浴槽が置いてあるという感じだ。
他のエリアと同様、ずらされた門型の断面で外と接する部分は全面ガラス張りだ。
 
10畳という広さを、建築家はどんなふうに決めたのか知りたいところだけれど、
私はこの広さがとてもしっくりと納得できた。
この広さとつくりならば、庭に裸で降り立つような開放感がある。
水分や湯気は気持ち良さの一方で煩わしいものだけれど、
この広さがあれば、そんなことちっぽけなものになってしまう。
美しい豊かさだ。
こんなお風呂のあり方も素敵だと思った。
 
             ◇ ◇ ◇
 
建ものとしての収納が、最小限だったことも印象的だった。
台所ですら、収納は作業台の下に一列の引き出しがあるのみ。
足元の収納、頭の高さの収納は、潔く何もない。
他の箇所も、作り付けの収納は見受けられず、
必要なところに家具として棚やラックが据えられている。
すべてが見渡せるワンルーム。
押し込む場所も隠す場所も設けられていないシンプルな建ものに、
ご夫婦にとって必要なもの、暮らしが豊かになるものを
必要な場所に自然な気持ちで置いたような印象を受けた。
 
私も家族とともに、ひとつづつ年を重ねていく。
いろいろ試行錯誤しながら、持ちものも増えてしまったり、
あれやこれや手をつけて、てんてこまいになったりもすると思う。
それでも、ひとつずつ選び取りながら年を重ね、
この建ものの住み手のご夫婦のように、
豊かに凝縮された暮らしができるようになっていたいと思った。