渡辺篤史の建もの探訪ー世界初 環境型コンクリートの家(山下保博、株式会社 アトリエ・天工人)

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建もの探訪ファン
感想: 

お外は身を切るような寒さで冬本番。
にもかかわらず、ちびっこはいつだって外へ、外へ。
かーさんも負けてはいられません。
  
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「世界初 環境型コンクリートの家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2016/2
素材にこだわった、大人の建物。
 
             ◇ ◇ ◇
 
40代のご夫婦二人のための建ものは、
こだわってこだわって作り上げられた、大人の空間だった。
化学関係の仕事をされているご夫婦ということもあって、
素材へのこだわりは素晴らしかった。
 
まず、タイトルにある通り、ただのコンクリートではない。
火砕流堆積物「シラス」を使った、完全リサイクル可能なコンクリート。
環境的な建ものであってほしいという思いから、
コンクリートそのものも、この建もののために独自に開発したものだという。
 
建ものの中は、素材の様々な加工によって生み出された
変化のある「黒」が美しかった。
1階の玄関・ギャラリーに作りつけられた収納の扉は、
MDFの表面を研磨して墨を塗り、蜜蝋ワックスをかけたというもの。
光をじんわりと吸収するような、穏やかな黒だった。
ご主人がこうした加工がなされた椅子に出会ってすっかり気に入り、
この建もののための扉をも作ってもらったのだという。
同じく1階の和室の引き戸も美しい黒だった。
黒泊(酸化加工した銀泊)が貼られている。
これもまた、じっくりと生み出された黒。なかなか渋い。
収納扉とこの引き戸は、共に並んで目に入る。
それぞれの黒が重なり合い、なんとも味わい深い空間だった。
 
そしてもうひとつの黒は、2階のLDKにある収納扉。
こちらはステンレスで、焼付塗装が施されているそうだ。
シャープで清潔感のあるステンレスがシックな雰囲気を纏って、
この建ものにとてもよく似合っていた。
 
優しい素材に包まれた住空間を、丁寧に生み出した色で彩っていく。
とてもとても贅沢な家の作り上げ方だけれども、素敵な贅沢だ。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
環境的な建ものであってほしいという思いは、
熱環境のシステムにも込められている。
 
建築面積9.4坪という、小ぶりなコンクリートの箱は、
ドアのないひと連なりの空間になっている。
1階は玄関、和室、ギャラリー。
和室は仕切りとして必要があれば閉められるが、
基本的には開放していて、和室、というより畳の一角というかたち。
小さな建ものながら、豊かな広がりのある1階になっている。
2階、3階には2層分の吹き抜けがある。
LDKと水廻り、階段室がひとつづきで、階段を上がると
ロフトのようなオープンな3階の寝室兼ワークスペースにつながる。
オープンな空間が寝室だけれど、ベッドの周りには、
ぐるりと囲うようにスクリーンを下ろせて、
テントのよう小さな寝室にもなる。
トイレと浴室にも吹き抜けがあり、空からの光と空気を
2階のトイレと浴室、3階の寝室兼ワークスペースとの両方で得られる。
こんなふうに、光と空気は階層を超えて建もの全体で共有されていた。
 
このひと連なりの空間は、階段部が煙突のような役割を担う熱循環システムによって、
全体的に快適な温度で保つことができるのだそうだ。
 
そんなシステムから切り離されたように、
地下にはオーディオルームがあるところがまたいい。
オープンな空間と小さな閉じた空間。
そういうバランスが、楽しくて心地よいと思うのだ。
 
             ◇ ◇ ◇
 
独自性があるのは、コンクリートをはじめとする素材だけれない。
把手類や照明も、作家さんに依頼して作っていただいたものだという。
住み手のご夫婦、建築家、作家、その他の企業や職人さんによる
芸術品みたいな建ものだ。
そんな建ものを見て、改めて思った。
せっかくの人生、美しい空間で暮らさなくては、やっぱり損だ。