渡辺篤史の建もの探訪ー採光最高!超細長敷地の三角窓 (井上玄、株式会社 GEN INOUE)

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感想: 

今年も桃と菜の花の季節がもうすぐだ。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「 採光最高!超細長敷地の三角窓」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2016/6
うなぎの寝床の家。
 
             ◇ ◇ ◇
 
接道間口4.5m、奥行き28mの細長い敷地。
道路面以外はびっちりと建物が迫る。
土地も出会いのものといい、人との不思議な出会いとつながりのように、
素敵な出会いがきっとあるわよ、と、
土地探しをしている私たちは、方々でそんな声をかけていただき、
それぞれの出会いのエピソードを楽しませていただくこの頃だ。
このご家族にとっても、この土地は予算やライフスタイルにぴったりで、
びびっときた出会いだったのだろう。
そして条件の厳しい敷地ゆえ、それだけよけいに
建築家がどう料理してくれるかワクワクしたにに違いない。
 
そう。
こんなにも細長い土地、しかも3方角からの日当たりは期待できない土地。
大金をはたいて買うのだから、この条件では不安も大きかったはずだ。
信頼できる建築家の存在なしに、買おう、その判断は、私にはできない。
このご家族が、どのタイミングで、どんなふうにこの建築家に出会ったのかわからないけれど、
土地と同じくらい、びびっときた出会いだったろう。
そして、胸膨らませた家づくりのスタートだったと思うのだ。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
細長い敷地の形そのままの、幅3m、奥行き23mの建物。
この長さを実現したのは、筋交いだ。
その構造上不可欠な筋交いが、空間にリズムを与え、採光のポイントとなり、
そしてこの建ものの顔を引き締め、印象的なものにしていた。
 
1階部分、斜めに切られた下半分が曇りガラスになった建物の正面に玄関がある。
その3角形の曇りガラスの左側3分の1ほど、台形状に切られた玄関扉を開けると、
筋交いと一体化した三角形の壁が、細長い空間を区切るように連続して配されていて、
その三角形の先に、建ものの向こうの端が見通せた。
長い!その広がりが楽しくて、なんだかとても伸びやかだった。
 
2階部分は、筋交いの傾斜がそのまま屋根になった部分と、
それよりなだらかな屋根がかけられた部分とが交互に配されている。
筋交いの傾斜がそのまま屋根になった部分(筋交いと一体となった屋根)に開けられた天窓と、
屋根の傾斜の違いによって生まれた三角形のすき間からの光が想像以上に明るい。
そして、刻々と変化する空が、雲が、星が眺められるという。
壁に収納可能な仕切りも設けられているものの、2階全体はワンルームになってる。
その長いワンルームを、筋交いと一体になった屋根部分を挟むことで
リズムよくエリア分けしている。
 
しっかりした建ものだなあ。と渡辺さんは漏らされていたけれど、
どっしりとした筋交いが、構造的にしっかりしているのだという安心感、
空間として守られているような安心感を与えていているような感じがした。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは、枠組みの自由度が少ない中で、
中をどう使うかがよく練られていて使いやすそうだった。
 
1階は、寝室、化粧室、ウォークインクローゼット、水廻りになっていて、
朝の支度、夜の就寝準備の動線がとてもスムーズだ。
特に、お子さんは女の子ふたりということもあって、
楽屋のような感じの化粧スペースが作られていたのが素敵だった。
鏡の前に集まる美人母娘3人。なんとも微笑ましかった。
こういうの、ありそうでない。
 
2階は活動スペース。
何しろ長いので、家族の居場所がなんとなく分散されてしまうような印象があって、
私ならどうするかなあ、とあれこれ考えてしまっていたけれど、
リビングスペース、畳スペース、階段、ダイニングスペース、キッチンスペース、子供部屋
という並びは、台所を中心に子供たちが安心して過ごせ、
来客時にも動線がスムーズで、やっぱりこれが最適解だなあ、と思い至る。
しかし、シンプルなつくりの一続きの空間だからこそ、
どう使おう、それがこれからも楽しいと思う。
 
             ◇ ◇ ◇
 
実際に暮らしやすいか、光や風通しは本当に心地よく感じるのか、
それは、実際に体験してみたいところだ。
それでもとにかく、こんなふうに空間が生まれるんだ、
という驚きと楽しさがいっぱいの建ものだった。