渡辺篤史の建もの探訪ー5つの箱が連なる家 (西村幸希+西村嘉哲、西村幸希建築設計)

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感想: 

春だなあに、今年の私は鼻ぐしゅぐしゅにしみじみ感じる。
とうとう花粉症になってしまった。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「5つの箱が連なる家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2016/7
「小さな豪邸」。建築家が選んだこの言葉がぴったりだ。
 
             ◇ ◇ ◇
 
建築面積7.8坪という、小さな建もの。
心に気持ち良く入ってくる、美しいものだった。

窓辺に揺れる繊細な白いレースのカーテン、
空だけが見える大きな大きな窓、
ヘリボーンという組み方で張られたLDKの床、
個性的なデザイナーズ家具、
花形、リボン付きのベル型など、形が楽しい様々な照明、
階段箪笥のような作り付けの収納兼階段、
額縁のようなダイニングの窓
ガラスの細かいタイルが張られた浴室。
ひとつひとつがとても美しい。
優美な空間と時間が、そこにあった。
 
小さな家での暮らしを営もうとすれば、
所有するものも暮らしのスタイルも、
本当に必要なものを選び取り、厳しくそぎ落とさなくてはいけないだろう。
そんな暮らしを支える今回の建ものは、
本当に必要な機能というだけでなく、
心地よい優美さ、柔らかさがきちんと織り込まれていて、
この建ものならば最小限で十分だと思わされた。
正に、「小さな豪邸」なのだ。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
丁寧に取捨選択されたものが、豊かなふくらみを持たせて生かされている
ということが、とても印象的だった。
 
内装やインテリアに選ばれた色は白。
でもその白い部屋は、ぺったりと塗られたものではなくて、
カーテンのレース、塗装後の磨きの違いで色の変化が出された床材、
部屋の奥行きがつくる陰影を楽しめる壁など、
様々な素材や質感の白が丁寧に組み合わされて出来上がった空間だった。
 
外壁として選ばれた素材も、その1つの素材を櫛引や吹き付けなどの
タッチの違いによって、豊かな表情に仕上げられていた。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
この建ものは、地下、1階、2階の3層になっている。
地下は水廻りと主寝室というプライベートなスペース、
1階はLDKと多目的スペースで、2階は予備室(将来の子供の勉強部屋)。
1階は扉のないひと続きの空間になっている。
ひと続きといえど、タイトルにある通り「5つの箱が連なる家」。
奥行きの浅い細長の箱を連ね、箱の継ぎ目を門型に切ってひと続きにしたようなつくりだ。
5つの箱は、手前から玄関前テラス、玄関ホール、居間、食堂と台所、多目的スペース。
多目的スペースは、個室とも言えるようにほどよく奥まっていて、
今は小さな子供の遊び場のようになっている。
そして、その多目的スペースの壁に造作された階段箪笥のような収納が
本当の階段になっていて、その階段を上ると隠れ家のような予備室だ。
 
奥に行くほどにプライベートな空間となる。
天井の高さが4mもとられた開放的なリビングの奥は
だんだんに天井も低くなり、落ち着いた安心感が増す。
大きなリビングの窓から届く光も、奥のスペースに進むごとに落ち着き、
その陰影の変化を門型の壁の連なりに楽しむことができる。
 
丁寧につくられた空間が織り成す小さな家は、
暮らしの喜びがたくさん詰まっていた。