渡辺篤史の建もの探訪ー曲面天井の和・洋・趣味空間 (村田英男、株式会社村田建築設計)

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感想: 

町の小さな美術館は、気兼ねなく楽しめる。
子どもも楽しめる企画展は嬉しい限り。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「曲面天井の和・洋・趣味空間」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2016/11
40代のご夫婦おふたりのための家。
ものづくりの「技」が光る美しい建ものだった。
 
             ◇ ◇ ◇
 
伝統的な知恵や、職人技がたくさん散りばめられた建ものだった。
そんな知恵や技によって実現する遊び心や彩には、格別な豊かさがあった。
 
まずは外観。
土壁のような落ち着いた色の壁は、美しい左官仕事が光る
天然石の塗り壁だという。
建もの正面の2階部分には、小ぶりの無双窓がちょこん。
壁に馴染むようでいて、でもその控えめな窓がとても印象的だ。
 
メインの生活空間は2階に集約されている。
居間、台所、食堂、ワークスペース、寝室が一続きだ。
その2階で印象的なのは、何より船底天井だ。
色合いの違う板材が、バランスよくセンスよく並び張られている。
その彩豊かな天井は、半分が曲面になっているのだ。
梁が隠れるようにと、梁をふわりと包み込む形で張られた船底天井。
色合いの変化やその曲面は、布が渡されているようにさえ感じられた。
ふわりの大きな天井は、そのままテラスに面した大開口に流れ、
大開口からは、遠くまで見渡せる景色が広がっていた。
素晴らしかった。
 
大人ふたりだけの生活だと、その2階だけでも十分といいたいところだけれど、
この建ものの豊かさは、1階に二間続きの和室があるところだ。
4畳半がふたつ。
天井は網代天井。漆塗りの床あり。
濡れ縁が設けられた大開口からは、小さなお庭を楽しむことができる。
元々敷地にあった庭木をそのまま生かしたお庭で、
梅や松がいい風合いでそこにあった。
こんな手の込んだ和室があろうとは、
2階のモダンさからは想像もしていなかったから、
あっと驚き、そしてしみじみと、豊かだなあとため息が出た。
 
職人さんは、大変さを感じながらも、とてもやりがいを持って
この家づくりを楽しまれたのだろうと思う。
そういう豊かさが、そのまま日々の暮らしの豊かさであるようだった。
こんな家づくりをする建築家を選ばれたご夫婦のセンスとゆとりが
とても素敵だと思った。
 
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豊かなのは、建ものだけではなくて、
ご夫婦は、趣味も豊かに楽しんでいらっしゃるようだった。
そんな趣味のための工夫も組み込まれていた。
 
玄関脇には、土間続きの小さな部屋が設けられていて、
ガラス戸を閉めると防音室になる。
計画ではギター室だったこの小部屋、どう転がったか
愛犬たちの部屋になってしまっていたけれど、
将来ギター室に戻ることがあっても、解放的な籠り部屋はなかなか楽しい。
そして、愛犬たちの部屋のままであっても素敵だ。
土間であり、防音室であり、ガラス張りであるなど、
むしろ愛犬部屋として計画されたといっても疑わない。
よかったね、幸せなワンワン2匹。
 
お風呂もひと工夫がある。
ご主人はサーフィンもされるとのこと。
外にもシャワーがひとつ取り付けられていて、
そして1階に設けられた浴室には、外の濡れ縁からも直接入ることができる。
 
そしてキッチンには、ご主人が自ら捌くという大きな魚にも対応できる大きなシンクが。
これがまた、とても使いやすそうだった。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
延べ床面積39坪。
お二人住まいには持て余すほど広いようにも感じる。
けれど、居間、台所、食堂、ワークスペース、テラス、と、
どこにいてもお互いを感じながらそれぞれの時間を楽しめるような
独立性と一体感がある2階、そしてあっと驚く特別な1階の和室
という構成は、大人ならではの豊かさがあって、
それはそれは素敵だった。