渡辺篤史の建もの探訪ー3層吹き抜け RC造の中庭住宅 (廣木芳美+廣木邦明、ヨッチデザイン一級建築士事務所)

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建もの探訪ファン
感想: 

去年の今頃は、まだこんなに小さかったっけ?
ようやく、桜の季節が巡ってきた。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「3層吹き抜け RC造の中庭住宅」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2016/12
上質で美しい空間だった。
 
             ◇ ◇ ◇
 
アメリカで活躍されてきた建築家夫婦の自邸。
奥様のお父様が一緒に住まわれる二世帯住宅となっている。
欧米の住文化の中に身を置いて、それを理解し身に着けられたご夫婦だからこそ、
つくり上げ、住みこなせる洋の設えのお家だ。
上質なホテルのようで、すっきりと美しく、
そして家族の静かな会話を楽しみながら、
ゆったりした時間をじっくり味わえるような場所だ。
 
シャンデリアが吊るされたダイニング、
暖炉の火を見ながら過ごせる多目的室、
シャワールームが一体になった寝室、
ひとつのリラックスルームといえるような浴室。
 
それぞれが高い美意識と豊かな感性で作り上げられていた。
 
この美しい住まい、テレビ用かな?普段から本当にこんななのかなあ?
これは週末の家で、別宅が別にありまして、、、
と言われても納得してしまうなあ、と思いつつも、
とにかく、美しい家なのだ。
 
             ◇ ◇ ◇ 
  
一戸建てといっても、土のある庭が取られているわけではなく、
35坪の土地いっぱいを建物が占め、中庭やテラスが外と内をつなぐ。
プライバシーはしっかりと守られながらも、
外からの光は表情豊かに取り込まれていた。
 
地下階、1階、2階を貫く中庭が設けられていて、
この中庭が、落ち着いた光を各部屋に届けている。
各階、各部屋は中庭に向けて大きく開いていて、
3層の家の中どこにいても、中庭を介して外を、
家族の気配を感じられるようになっていた。
 
一番解放的なのは、道路に面した2階にあるダイニングキッチンだ。
この建もののお向かいは学校なので、空間的な広がりはあるけれど、
道路から、学校からは視線も入る。
ダイニングキッチンのベランダに、垂れ幕を2枚垂らすような形で
コンクリートの壁が設けられていて、その壁が外とのゆるやかな緩衝材となる。
その壁に守られてるような安心感をもって、
大きな掃き出し窓を開くことができていた。
ダイニング部分は高窓が巡らされていて、上からもさんさんと光が注ぎ込む。
道路と反対側は中庭に面しているので、中庭側からも光が入り、風が抜ける。
気持ちの良いダイニングキッチンであった。
 
光の表情という点では、地下の多目的室も落ち着きがあって素敵だった。
光を見上げるような中庭が地下空間の中心となる。
中庭に落ちる雨や安定した自然光を楽しめる。
地下でありながら、外の楽しみが豊かな場所になっていた。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
上質な、という言葉をたくさん使いたくなるお家だけれど、
その上質さってどこからくるのだだろう、と考えると、
それは華やぎのある素材とその使い方からくるようだった。
それぞれの素材が丁寧に選ばれ、その性質が生きるように工夫を凝らして使われていた。
 
まず、とても印象的だったのはキッチンだ。
キッチンは背面式で、ダイニングテーブルとの間にカウンターが配された形だ。
手が届くところまでしか収納はいらないという考え方から、
キッチンスペースの天井は低くし、逆に隣り合うダイニングは
ゆったりと3.7mの高さをもたせていて、
そのギャップがそれぞれのスペースをより際立たせていた。
そんなキッチンとダイニングなのだけれど、
キッチンの素材は、黒色の人工大理石だ。
天然水晶が混ぜられているとのことで、深い黒色はチラチラと輝く。
シンク前の壁に張られたウォルナットによって、柔らかな雰囲気も加えられていた。
黒いキッチンは珍しいけれど、建築家は自邸ということで挑戦してみたそうだ。
意外にも白いお皿や食材が映えるのだとか。
まさに「日常」が繰り返される場であるキッチンだけれど、
ちょっと気取りたくなるような華やかさと清潔感があって
すごく素敵なキッチンだと思った。
 
浴室もとても美しかった。
今回のお家には、2階の寝室に併設されたシャワールームとは別に、
1階に約6畳のゆったりした浴室がある。
画面ではよく分からなかったけれど、床や壁は大理石のようで、つるりと美しい。
そして、バスタブに浸かると正面に目に入る壁には、
光を反射して鈍く輝く小さな四角いタイルが張られていた。
この部分、何を飾るか、どう仕上げるか悩んだ末、
素材の美しさが楽しめる形が一番しっくりきたとのこと。
窓から入る光やキャンドルの光を受けて、
一枚の絵のようにタイル面は刻々と表情を変える。
素晴らしい空間になっていた。
 
外壁にも触れておかなくてはいけない。
鉄筋コンクリート造のこの建もの、
外壁となるコンクリートには木目が写し取られていた。
つるりと打たれたコンクリートもまた違う美しさがあるけれど、
木目の模様は表情がとても柔らかくて、垢抜けていた。
 
中庭の壁も、職人さんの手によって、四角いブロックが
幾何学的な模様が浮き出るような表情をつけて積まれていて、
ひとつの絵のようでもあった。
 
感性を刺激する美しい時を。
そんな建ものだった。