渡辺篤史の建もの探訪ー”ワンルーム“で”7LDK”の家(峯田建、恩田恵以・スタジオ・アーキファーム一級建築士事務所)

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感想: 

 ”ワンルーム”で”7LDK”の家。タイトル通り、とてもユニークな建ものだった。
 この家族はこの家を住みこなしている、というのだと思う。4歳と6歳のこどものいる4人家族が営むこの家での暮らしを、私はとてもイメージを膨らませてみることができたし、家もその暮らしも、なんだかとてもイキイキとしていて、この家族によく似合っていた。そして、こんな家での子育ても素敵だな、と思った。
 
 このユニークな空間。建築家の説明によると、「斜面地をなぞる段々畑のようなワンルームの家」とのこと。私が知っている空間を使って説明するとすると、劇場みたい、だと思った。
 一つの箱型、天井の高さ6メートル近くにもなる大空間。その中には、舞台とストール席とでもいうようにリビングダイニングがあって、それをとりまくように、バルコニー席のようないくつもの部屋が配されている。バルコニー席のような部屋は、リビングダイニングとその吹き抜けにつながっていて、それでも十分に孤立した安心感があって、ちゃんと「部屋」なのだ。これを、”ワンルーム”で”7LDK”という。
 
 この家族の生活には音楽があって、リビングにはピアノやギターやドラムもスタンバイ。リビングが、まさに舞台とストール席になることもあるのだろうな、と楽しく想像した。
 
 バルコニー席の一つは、洋裁を趣味にされている奥様のアトリエ。オープンに籠る芸術家を、楽しく想像した。
 
 この家の「玄関」も、とてもユニークだった。北向きのポーチからドアを開けると、もうそこはリビング。玄関というよりは、縁側から誰もが出入りするような感じになる。
 来客者が何のクッションもなく自分達の部屋に入り込んでくるようで、そのことを想像すると、私はなんだかそわそわと落ち着かないようにも感じるけれども、このオープンさ、公平さもまた、このお家と家族を魅力的にしていると思う。
 
 子供達のお友達が遊びに来たり、音楽仲間が集ったり、いろんな人がが気軽にちょっと立ち寄ることがあるやもしれない。「やあ!」、「いらっしゃい!」。そんなやりとりがいつもあるろうなと、私は楽しく想像した。

 このご夫婦は、自分の趣味や自分の好きに対するしっかりとしたイメージを持っていて、自分達らしい過ごし方をされている。それがちゃんと建築家に伝わっていて、こんなユニークな形になったのだと思う。
 
 部屋をどう割り当てるか、ではなく、自分が心地よい場所を見つけて使う。そんなワンルームの楽しみがとても魅力的に見えた。
 「こういう自由な空間がいいのは、子供が幼児のうちだけではないのかしら。子供が大きくなったら困りそう。」今回は、そんなふうには思わなかった。
 好きなところで勉強するだろう。好きなところで寝るだろう。収納庫ひとつ占領して、ポスターを張り巡らせるかもしれないし、クローゼットにするかもしれない。アトリエを取り合うかもしれない。
 「好きなように、おやんなさい。」
 そいう子育ては、たいそう楽しそうだ。