渡辺篤史の建もの探訪ー枝付き丸太の大黒柱 5角形の家(青山恭之+永田博子・アトリエ・リング一級建築士事務所)

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感想: 

 この洞穴、住むのにちょうどよさそう。洞穴の前には形のよい木が生えているから、よい木陰になるし、洗濯物干すにもちょうどよい。この広く開けたところは居間にする。このちょっと一段高く奥まったところは、寝床にするのによさそう。ちょうどここからよい光が入るし、この木の根に沿って布でもかけると、ほどよい小部屋にできるはず。 
  
 森の中に自分の棲家を、基地をつくるのを、こんなふうに想像するのはとてもワクワクするけれど、さいたま市の住宅街で、想像でなく実際に、そんな棲家づくりをしている家族がいるみたいだった。この”枝付き丸太の大黒柱 5角形の家”は、そんな自分で作り出していく楽しさがたくさんつまった家だった。
 
 
 このお家は、まず土地がおもしろい。ぐるり囲まれた5角形の変型狭小地。細い通路で表通りにつなげられている。「駅近だけど変型で格安」ということがあるのかもしれないけれども、この家族はきっと、「このぐるり囲まれた感じが、居心地よさそう」とか、「この通路をぬけると目にするへんてこな広がりがたまらない」とか、そんなふうにビビビ!と心を動かして、たまらなくなってこの土地を手に入れてしまったのだろうなと思う。私もぜひ、こんなふうに感性をぐぐっと傾けて、住むところをみつけたい。
 
 もちろん、そんな土地に工夫して建てられた建もの自体も、とても個性的だ。
 モニュメントのような枝付き丸太の大黒柱が中心にある、山小屋のような雰囲気のお家。1.5階の高さにある玄関を入ると、少し上がって2階部分にLDK。食事に、勉強に、創作活動に、自在につなぎ合わせて使える机が据えられた板の間と、一段高くなったごろ寝のための畳。はしごを上れば居間を見下ろせるロフトのような空間を楽しめる。1階は、日照を期待できない立地上、2階から下りてゆくと地下に下るような感じになる。5角形を楽しく巧みに区切って、トイレやお風呂場、寝室、衣装部屋などの小さな小部屋が連なるフロアにされている。この1階で特素敵なのは、寝台列車のような子供のための個室。寝床と、ほんとにほんのちょっとしたスペースが添えられた、一人になれる空間。もう、大好きだ。
 
 このへんてこな土地に、建築家は「ちょうどよい洞穴」のような建ものをつくりあげ、この家族はどんどん暮らしを想像して創造して、お家をつくりあげていた。私もぜひ、こんなふうに想像力と想像力を結集して、「いい家にしたでしょ?」と自慢したい。
 
 
 でも実は私、ちょっと野暮ったいな、とも感じた。
 お部屋のあちこちに彩られた家族の作品や目隠しの扉のない作り付けの棚、個性的な構造や装飾物など、「有機的な」と渡辺篤史さんが表現した部分が、私にはちょっとうるさいようにも感じたのだと思う。なにしろこの番組で紹介されるお家は、スッキリが多いから。それでも、エネルギーに満ち満ちたこのお家と家族は、とても健やかで素敵だった。
 
 時に私は、物を選んだり作ったりすることが怖い。プロでないから、センスに自信がないから。野暮ったくなるから。誰かが、野暮ったいと思うのじゃないかと思うから。でも、いろいろ隠してすっきりさせることや、洗練された物で彩ることだけじゃなくて、なんだかこう、感性と想像力と創造力でお家をいっぱいにするって、体によさそうだなと、そんなことをこのお家から感じた。