渡辺篤史の建もの探訪ー壁が双曲放物面を描く家(遠藤政樹・EDH遠藤設計室)
臨月に突入した私は、ただいまお里帰り中。毎日、駅までの決まった道をお散歩したり、せっせと庭仕事をしたり。久しぶりの懐かしい土地は興味深く、久しぶりのお庭のある家での生活は、やっぱりちょっと嬉しいのだ。
高校生の時、学校までの道のりにお屋根の形がとっても個性的なお家があって、週の半分くらいは、ちょっと遠回りして、わざわざそのお家の前を通ったりした。
お屋根の形が楽しくて。どんな人が住んでいるのか見たくて。
今回の建ものをみたら、久しぶりにそのお家を見にお散歩に出かけようかな、と思った。
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今日の建ものは「壁が双曲放物面を描く家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2013/43
建築費7,600万円!!とびきりの道楽建もの。
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そう、道楽の建もの。
「使いにくさも覚悟の上で、とにかく個性的に。」
というのが、このご家族の希望だったという。
「こんな『暮らし』がしたい。」
その思いがあって、その箱のようなものがお家だと、私は思ってきたのだけれど、このお家、この家族の家づくりはちょっと違う。
自分の個性を表現するものを作って、自分がオーナーとして街に据えてみた。家自体が、一つの自分のコレクションのよう。そして、 自分の とっておきのコレクションを飾り、愛でながら過ごす場所としての道楽の場。
暮らしの箱というよりは、なんだか道楽のひとつとして建てたお家。
そんな印象がある。
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双曲放物面のお顔を持ったこんな建ものが街に据えられたら、毎日がちょっと、楽しくなる。中がどんなか想像と妄想が広げながら、私は毎日前を通るだろう。
オーナーには、そんな私をがっかりさせないように、毎日とびきり個性的な装いで素敵に表へ出てきてほしいし、好奇心いっぱいのきらきら目の私に気がついたら、そんなとびきりの道楽を独り占めしないで、ちょっと中をご案内していただきたい。
もっとも、今回はテレビを通じて私は彼らの道楽を楽しませていただいた。
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しかし、この建もの、家族のためのというより、ご主人の趣味全開!!という感じなのだけれど、家族(奥様と12歳の息子)はどのように思ってらっしゃるのだろうか。
私だったら、
「 自分のとっておきのコレクションを飾り、愛でながら過ごす場所としての道楽の場」
とする時点で、夫の意向を受け止めてあげられる自信が、ない。
この建もの、まずはスポーツカー「ロータス」を愛でる空間がエントランスとなる。
腰を下ろしてロータスのヒップをじっくり眺めて仲間と語り合ったり、
「ちょっと高所から」
と、階段の踊り場で一服したり。小さな書斎スペースから、ガラス越しに目を向けたり。そんなふうに愛車を堪能できるようになっている。
そして、壁面いっぱいにディスプレイされたおびただしい数のスニーカー「スーパースター」。そのコレクションを愛でながらエントランスの階段を上がり、お船のようなバーのような雰囲気のリビングダイニングで、やはりコレクションに囲まれて、満足して過ごす。
そんな建もの。
でも、まあ、コレクションもお家に心地よく一体化しているから、意外にすんなり慣れるかもしれない。むしろ、感化されて、収集熱を夫と張り合うようになるかもしれない。
家族だから、分かること。
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「使いにくさも覚悟の上で、、、、、」とはあったけれども、実際のところ、生活空間としてなかなか機能的そうだったことも印象的だった。ざっくりたっぷりの収納でスッキリ片付けられるキッチンや、しっかりとられたドライエリアは主婦として羨ましい。
3階の子供室も、地階の多目的室も、まだまだこれから、オーナーの個性によって魅力的に使いこなせる、そんなポテンシャルを秘めていた。