渡辺篤史の建もの探訪ー2つの庭を包むH型の平屋(松原正明・松原正明建築設計室)
里帰り中の実家で、臨月の運動と称してお庭仕事に精を出している。
そんな中、なかなかいいものを掘り当てた。お洒落にレタリングした「お」がマジックで書かれた石。
ちっとも覚えていないけれど、家族の中でこういうことをするのは私くらいだから、きっと幼き私の作品のはず。お庭で遊んだ痕跡がこんなふうに出てくるのは、なんだかとても楽しく嬉しい。もっとも、遊んだ、というよりは、金魚かザリガニの墓石だったかもしれないけれども。
なにはともあれ、お庭は一番身近な自然だった。
朝から晩まで大きな穴も掘ったし、陽気の中で写生もしたし、ちょっと気取って椅子を出し、蚊に刺されながらも本を読んだり日記を書いたし、夏の夜は寝転がって星もたくさん見た。
土がすぐそこにある生活は、やっぱり何より豊かだと思う。
◇ ◇ ◇
今日の建ものは「2つの庭を包むH型の平屋」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2013/46
私は、「分譲住宅地に建つ山荘」と名付けたい。
「土がすぐそこ」の生活を堪能できる、素敵なお家だ。
◇ ◇ ◇
このお家のお庭は、平屋を取り囲む小さな自然。園芸を楽しむための庭とも、眺めるための庭ともちょっと違って、山をそこにちょっと連れてきたような感じ。暮らしの近くに土があること、緑があることを心地よく楽しむための庭。
このお家は、まさに住宅地にぽっかりと現れた山荘なのだと思う。
「まだ幼い二人の子供の成長を見守りながら穏やかに過ごせる家」が要望だったそうだけど、山荘での子育てなぞ、本当に素敵だ。子供達がお庭へ下りれば毎日は発見に満ちているし、移り変わるお庭を背景に、四季折々の家族の風景が鮮やかに作られていくことだろうと思う。
そして子供達は将来、私が先日した発掘のように、幼き日の作品を庭に見つけるかもしれない。
◇ ◇ ◇
H型、というこのお家の形もまた、私の好きな山荘の生活のイメージそのままだ。
私がイメージするお山荘の生活には、温かさと静けさがある。
火のあるリビングで温かにみーんなで過ごして、夜はその温かくて賑やかな場所を遠巻きに感じながら安心して静かに休む、という幸せ。
リビング棟、寝室棟とに別れていて、それを書斎部屋がつなぐH型というこのお家の形。そこにはまさに、そんなお部屋とお部屋の距離感があって、気持ちのよいリズムのある生活ができそうだ。
このご家族も、古いもの、新しいもの、選び抜いた道具やインテリアに囲まれて、大切に暮らしを営んでいらっしゃる様子だった。家族で暮らしをひとつひとつ作り上げていく。本当に尊いことだと思う。