渡辺篤史の建もの探訪ーサンルーム・リビングの家(浅井正憲・浅井アーキテクツ)

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感想: 

「シクラメン、そろそろ勢いがなくなってきたよ。」
私の里帰り留守中、夫は窓辺のシクラメンとベランダの鉢植えの世話をせねばならない。
置いてきぼりにした鉢植えの様子をも楽しみに、今週私は里帰りを終了する。
 
               ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「サンルーム・リビングの家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/2
 
敷地に対して斜めに建ものが配置することで、建もののまわりには三角形の坪庭が生まれた。
その坪庭の緑が、この建ものと周囲との関係をやわらかにしている。
坪庭の緑に守られて、サンルームリビングとデッキテラスは安心してのびのびと開いている。
 
お家を建てよう、お家を探そう、と思った時、私は何をいちばん大切なものに挙げるかしら。
「敷地いっぱいに建物を建てず、また、周囲に対して閉じた感じの家にはしたくない。」というのがこのご家族の希望だったという。
そう希望を挙げたこのご家族は、とても素敵だと思う。
 
私はこの建ものが好きだ。
 
               ◇ ◇ ◇
 
中学生の時、初めてヨーロッパの街を目にしたことを思い出す。
父が長期出張に行っていたアムステルダム。その街並の美しさといったら、衝撃的だった。
父が滞在していた大きな窓のある長屋の通り。どの家の窓もピカピカに磨かれていて、窓辺には花やオーナメントで美しく飾られていた。レースのカーテンすら引かれておらず、美しい窓辺の奥には素敵に整えられたお部屋を通りから見通せた。
「どう?我が家は素敵でしょう?」と、どの家もさりげなく街へ、通りを歩く人へ、アピールしているようだった。そして、そうして美しい窓辺をつくることが、街への敬意のようにも感じられた。
 
そんな街並の記憶がしっかりと残っているので、私は借景ならぬ貸景してさしあげるつもりで暮らしたいと思っている。
街が、ちょっと素敵になるように。
お隣さんが、ちょっと嬉しいように。
通りを歩く人が、ちょっと楽しいように。
 
私も、お家は「自分の敷地」の中だけで完結するものでなく、外へ広がっていくとよいと思う。お家は、街をつくるひとつの要素だと思う。
 
外へ心地よく開いた今回の建てものは、見ていてとても心地よかった。
 
               ◇ ◇ ◇
 
東西二棟の間にトップライトを架けて、1階は外のようなサンルーム、2階は内のようなテラスとした、というつくりもとてもユニークで面白い。
 
東棟2階にある浴室へは、西棟2階の寝室からテラスを通って行かなくてはならない。
寒い冬にお風呂に行くのに勇気がいるし、横殴りの雨の降る夜なぞは、着替えたばかりのパジャマがちょっと湿ったりするかもしれないけれど、火照った体で外の空気を吸う気持ちよさはなかなかのものだろう。
 
1階には、サンルームになったリビングダイニングを隔てて子供室と台所。子供室と台所はアーケードの向かい同士のお店のよう。
空間の自然な一体感があるのに、それぞれ独立していて、ほどよい距離感が感じられる。
 
素敵な工夫のある、優しい家だった。