渡辺篤史の建もの探訪ー崖地で変形地の多角形ハウス(矢作昌生・ 矢作昌生建築設計事務所)

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感想: 

先日、里帰り中に会えるかしら、と、中学校の時の友達に連絡をとるために卒業アルバムを引っ張り出した。
アルバムとともに、
「将来の夢:坂の街に住む。」
と書いた私を発見した。
普通は職業をかくべきところだろうに。
苦笑しながらも、「住むこと」への夢は尽きない中学生だったのだなあ、と改めて思う。
 
               ◇ ◇ ◇
 
そんな坂の街好きの私に、頃よく、、
今回の建ものは「崖地で変形地の多角形ハウス」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/3
 
崖地、変形地、狭小地の三重苦。
このご家族が建築家と出会って、完成まで3年。
住みたい人がいて、土地が待っていて、建築家がいて。
すべてが一期一会。一期一会を捉えた建もの。
 
               ◇ ◇ ◇
 
1階だと思って入ると実は地下、という建物の楽しさといったら、想像しただけで嬉しくなる。
毎日の外出はちょっと大変だけれども、平坦な道にはない景色の変化にドキドキするし、えっちら上って振り返った時の爽快感はたまらない。
そういう、私が憧れる坂の街の魅力と楽しさを、すっかり満喫できる建ものだった。
 
リビングダイニングの少し高めの窓は、空を見上げるための窓。
多角形のリビングダイニングにとられた畳スペースは、窓に向かう末広がり。
書斎の机は、大きな窓に向かって。
寝転がったら夜空を見上げられる寝室のベッド。
ベッドから抜け出したらグワンと広がるパノラマビュー。
家の中から、空へ、お外へ、いつだって向かえる。
山側に面した子供部屋と台所に入れば、籠る安心感と、時にそこ這い出す開放感とを味わえそうだ。
 
               ◇ ◇ ◇
 
大雨による崖崩れ、地震による埋め立て地の液状化や盛土造成地の崩れなんかのニュースをみると、狭く山ばかりの日本列島では人が安心して住めるところなどほんのぽっちりなのだなあ、とため息が出る。
 
実家の近所に用水路と田んぼを埋め立てて何軒もなん軒も建てられた建て売り住宅を眺めては、大丈夫なのかなあと心配になる。地盤が弱いとか水が集まりやすいとか、その土地が持つ性質や自然を知って住みたいものだけれど、現実的にはなかなか難しい。
 
土地を選びとるのはすごく難しいと思う。でもそれは、人と出会うのと同じように運命的なものなのだろうなと思う。
 
この家が建つ前の敷地の様子も紹介されていたけれど、その様子は失礼ながら、「土地」というにはあまりに貧弱で、暮らしを預けるにはあまりに心もとなく思った。こうして素敵な建ものが建っているのをみてもなお、自分が所有する土地と家としては、私はやっぱりちょっと心もとなさをも感じる。
それでもこの家は、ここに住みたい、この景色を見て暮らしたいと思うところに出会った時、こんなふうに工夫できるのだと示してくれていた。すごくエネルギーのある家だと思う。
 
この土地にしか建たない家。
出会いがたっぷりつまっていた。