渡辺篤史の建もの探訪ー陰影を楽しむ大人の家(伊礼 智・ 伊礼智設計室)

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感想: 

久しぶりに、クラシックギターを弾いてみた。
 
学生時代に部活で夢中になって楽しんだギター。
気軽に手に取って奏でられるほど上手でないから、好きだけど、弾こうと思うと相当な気力がいる。だからすっかり遠ざかってしまっていた。
グズグズする4ヶ月の娘のお相手に、そうだこんな時こそ楽しんでしまおうと、ギターをひっぱり出す。
音階練習を始めると、娘は心地よさそに、うっとりとした。
 
めまぐるしい日々の中で、趣味の時間を上手に見つけてながく続けていくことは難しいとばかり思っていたけれど、やってみれば、やれるものなのだ。
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「陰影を楽しむ大人の家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/18
ご夫婦と、成人されたお嬢さんの3人家族のためのこの家は、オトナな雰囲気の家。
そして、こどもオトナのための家。
 
            ◇ ◇ ◇
 
人生にはいくつものステージがあるけれど、子育てを終えたこのステージでの家づくり。すごく贅沢なことだと思う。
おとうさん(オット)、おかあさん(ツマ)、むすめ、という関係に捕われず、それぞれ個々の時間を存分に楽しむ大人が3人、ひとところで暮らす、というような面白さをすごく感じた。
 
家族3人それぞれが、寝室とクローゼット、そしてそれに隣接した趣味の小部屋をもつ。
ご主人様には、ヴィンテージ・オートバイを楽しむためのガレージにも通じた作業場。
奥様には、茶室としても楽しめそうな、和室。
お嬢さんには、書斎兼ネコの遊び場。
書斎やアトリエを配したお家はよくあるけれど、このお家は、それがなにしろそれぞれの寝室とクローゼット付き。 寝室付き趣味部屋か、趣味部屋付き寝室か。
家庭内別居!?いや、そういうことではないと思う。だって、家族が集う居間が、個室と同様にとても温かで居心地よさそうでしたからね。
もう、自分の時間に集中したってよい立場の大人の家。
自分の部屋で自分の楽しみを大切に育んだり勉強に集中したこどもの頃が再び巡ってきたよう。自分の時間を存分に楽しむためのこどもオトナの家。
 
            ◇ ◇ ◇
 
「陰影を楽しむ大人の家」というタイトル通り、控えめにポッと入り込む外の光、ご趣味で集められたというフロアスタンドの光を受けた壁や天井が、とても印象的で素敵な表情をしていた。その美しい壁には、奥様のご両親から受け継がれた絵画や美術品が居場所を得ている。
 
両親から受け継いだものを咀嚼し、自分達自身の感性によって膨らませてきたものを改めて味わう。このご夫婦のようなステージでの家づくりだからこそ、そういうことがとてもうまく建ものとして表現できているのだろうなと思った。
 
私もまだまだ、両親、義両親の感性から学ぶことがたくさんある。そして自分で膨らませていきたいものが、たくさんある。そうして年を重ねていって、私も味わい深い空間を作ることができたら、とても嬉しい。