渡辺篤史の建もの探訪ー緑の風と素材の質感を愛でる家(熊澤安子・ 熊澤安子建築設計室)
青いランプを買った。
お引越しをして1年。
ひとつづつ家具やお道具をそろえてきたけれど、これはちょっと余分でうれしい。
◇ ◇ ◇
さて、今回の建ものは「緑の風と素材の質感を愛でる家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/26
美しい家だった。
その空間の心地よさは、体にすっと入ってきた。
気持ちがいい。
テレビだのに、その心地よさの余韻も感じてしまうほどに、美しい家だった。
◇ ◇ ◇
緑の小径を進むと、白い壁のお家が現れる。
振り返ると、表の通りはもう見えない。
ぽっかりと、別世界がここにある。
中に入ると、漆喰の白い壁。
ぐるりと上へ誘う螺旋階段。
左手、白い枠にガラスの入った引き戸を開けると、そこは居間。
木の床がふうわりと足の裏に当たる感じが伝わってくる。
小さなお仏壇がきちんと作り付けられていて、その脇にはゆったりしたソファ。
立派なスピーカーを両脇に据えたオーディオセットが、控えめな家具にぴったりと納まる。
すっきりとしたデザインの暖炉を前に、ゆったり過ごせるスペース。
その奥には、ヤマモミジが揺れる四角い窓を背景にして、6人がけのテーブル。
四角い窓の向こうは小さなテラスになっていて、そこにも食事も楽しめる小さなテーブルが一つ。
テラスの脇には台所。
建築家自らが設計して大工さんが仕上げたキッチンは、整然としている。
整然と並ぶ収納棚と作業台は、
「全部隠せるように収納はたっぷりにしました。」
というのではなくて、毎日気持ちよく使う道具はそこにあってほしい所に据えられているように見える。
毎日健やかに、使っては丁寧に手入れするが繰り返されているような台所。
ここにもダイニングテーブルが一つ。普段の食事はここで。
ゆったりした夕食やお客さまを囲んだお茶や食事、休日のごはん、そして日々繰り返される日常の食事に、と、リビング、テラス、キッチンにある合わせて3つのテーブルは、それぞれに働く。
とっても、素敵な贅沢だ。
台所の脇には扉。
開けると、ぐるっと回って玄関と奥様の仕事部屋である建築設計室に繋がる。
奥様の仕事部屋は9畳。
打ち合わせスペースと、作業机が2つ。
書棚に整然と書籍が並ぶ。
落ち着いた光が入る。
広すぎず、窮屈すぎず、必要なものが、必要なところに気持ちよくあるような仕事場。
見ていて、スカッと気持ちがよかった。
2階は、家族のためのスペース。
ゆったりした広さの子供室、ベランダが嬉しい気持ちのよい主寝室、和の美しさが詰まった和室、
そしてそれらの部屋へ続く小さなスペースは、家族みんながくつろぐ場。
テレビもここに控えめに据えられている。
こうしてひとつづつ、このお家のことを何度も思い出している。
◇ ◇ ◇
お料理上手なひとの台所は、無駄な余分がなくて伸びやかで美しい。
このお家は、そういう美しさがあると思った。
意思を持って日々の時間を過ごせている人のお家。
自分達に必要な余分を、ちゃんと必要なだけ伸びやかに楽しめる人のお家。
暮らし上手の住まい。
このお家のために作り上げられた緑の小径を、タイトル通り緑の風がすっと通る。
目に足の裏に手のひらにそして空気に、丁寧に選ばれた素材のよさを感じる。
テレビの画面を通してでしかないけれど、私は目一杯にそれらを感じることができた。