渡辺篤史の建もの探訪ー愛車と暮らす 都心の9坪(石井大 井上牧子・ 石井井上建築事務所)
週末、車を使ってかっぱ橋道具街へ出かけてきた。
乳幼児連れの今、行けるのは当分先と思っていたからもう興奮状態だった。
トタンの米びつに寿司桶、泡立器にバット、、。
欲しかったものをごっそりと手に入れた。
なんでもない、とにかく実用的な道具たち。
洒落た雑貨店で素敵なものに出会うのとは違う面白さ。
そういう、自分でよき物を見つけ出す楽しみはすごくワクワクする。
◇ ◇ ◇
さて、今回の建ものは「愛車と暮らす 都心の9坪」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/28
この家は、基地。
◇ ◇ ◇
建ものとして洗練されているわけでもない。
お家としてすごく居心地がよさそうというわけでもない。
私自身がこういう建ものでこういう暮らしをしたいかといったら、そうは思わない。
それでも、これはこれで、なかなかいい。
なにしろ、この建ものは、このご家族に似合っている。
こういう楽しみかたもあるのだな、と思わせられる。
車庫兼玄関なんて、ちっともエレガントでない。
何の壁もなく車庫の奥が台所と食堂だなんて、衛生的にどうだか、と思う。
そんな台所と食堂、なんだか毎日路上の屋台でごはんを食べるみたいだ。
鉄骨が露わになった1階から3階の内装は、カッコいい、というより作りかけみたいだ。
地下の居間は、反響が問題という。
ヒタヒタとした冷たさ、カンカンコオオンと響くような空間の硬さが想像できる。
ひどい言いっぷりかもしれないけれど、そう思った。
それでもいいのだ。ここは、基地なのだから。
ちょっと面白いこと、秘密のことをたくさん計画して、
ささっと腹ごしらえして、そして、颯爽と出動する場所。
建ものの最上部、屋根裏みたいな空間に囲炉裏があるのが映し出された時なぞ、
ほおらね、と私は思ってしまった。
面白いこと、秘密のことを計画する基地には、こういうちょっと狭くて楽しく寄り集まれる場所だってほしくなるのだ。
ほおらね、やっぱり、基地でしょう?と。
車や自転車、旅を楽しむこのご家族にとって、お家は基地みたいなものなのだと思う。
◇ ◇ ◇
インテリアや住まい方はちょっと工夫するといいように思った。
玄関を兼ねた車庫には、奥へ誘う赤いカーペットを通路として敷くのはどうだろう。
レッドカーペット。玄関らしくなって、私は素敵だと思う。
地下のヒタヒタとする居間には豊かな観葉植物やどっしりとしたソファがきっとよく似合う。
色合いが素敵なタペストリーは、無機質な壁にしっくりと馴染んで柔らかなお部屋になることだろう。
3階も、将来の子供部屋と予備室となっているけれど、今の「とりあえず」もったいない。
どんどん使ったら、どんどんお家はイキイキすると思う。
とっておきの愛車を愛でる感性で、渦巻く都会のエネルギーを取り込んで、この建ものは、もっともっと、楽しくなると思う。