渡辺篤史の建もの探訪ー昭和テイスト薫る家(一條太郎、 一條美賀・ 一級建築士事務所 まんぼう)
朝のジャムがなくなった。
と、いいところに八百屋さんで紅玉の山を見つける。
お砂糖の色のせいで、りんごのやさしい色は濃いワイン色に。
それでもその華やかな香りと味わいがぎゅっとつまったビン4つ半。
ああ、幸せ。
◇ ◇ ◇
さて、今回の建ものは「昭和テイスト薫る家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/29
丁寧な家づくり。
◇ ◇ ◇
建築家の自邸だったかしら、と、ふと思ってしまった。
いやいや、そうではなかったはず。
それくらい、ご夫婦の暮らしぶりはしっくりとお家に馴染んでいたし、
案内される口ぶりが、まるで自分たちの頭の中にあることを自分たちが形にしたようだった。
すごくおおざっぱなイメージから、すごく具体的なこと、ほんのちょっとしたことまで。
建築家の存在は、文字を書く時の鉛筆みたいに感じられた。
鉛筆は確かにある。だから文字が現れる。
でも、文字を形作るのは書き手から溢れてくるもの。
設計を担当した建築事務所のWebページを開いてみて、
なんだか納得できたような気がした。
「どんな部屋が必要かではなく、イメージされるライフスタイルについて話をしましょう。」
建築家との家づくりの経験が私にはないから、
建築家がどのように施主と対話し仕事を進めているのか、実際には知らない。
どのくらいそのやりとりや進め方が、建築家によって違うのか知らない。
だからこの「どんな部屋が、、、」と、この事務所がまず挙げていることが、
どれくらい特徴あることかは分からない。
それでも、あえて掲げているこのことが、確かに大切にされているのだと感じた。
この建ものは、この設計事務所が大切にしている対話の結果だ。
そんな家だった。
もっとも、施主であるご夫婦がまず存在あってのこと。
「『自分達にとって、心地良く住みやすい住まいとはどのようなものなのか』
ということをじっくりと考えたい」
という施主であるご夫婦の言葉があったという。
家具や持ち物、番組の中での言葉からも、自分たちが好きなこと、自分たちがしたいことを、
具体的に、きちんと言葉にできるだけの力と個性、感性をお持ちのご夫婦なのだ、
ということを、私は感じた。
◇ ◇ ◇
「昭和テイスト薫る家」。
建ものが薫るのか、そこに設えられたものが薫るのか。
前述のような家づくりだから、とにかく、もう、すべてが一体となって薫っているのだ。
その薫っているものが「昭和テイスト」かと言われると、そんな言葉にしなくたっていいと思う。
時間をかけて大切にされたきたものがもつ独特な雰囲気がある。
新しい家だのに、もうしっかり、時間の流れに根を下ろしているような感じだ。
個性的な色遣いの壁。
土間のような、モルタル仕上げの食堂と台所。
整えすぎない、菜園のある庭に草屋根の芝生。
色遣いの楽しいタペストリーやカーペット。
楽しく選ばれた家具や小物。
見ていて飽きない。
◇ ◇ ◇
そして、にんまりこだわりの一室は、この家を語るに外せない。
オーディオ室。
細かに、細かに、機器や音響板を調整して設置する。
お風呂につかるように、リラックスして腰掛けて音につかる。
そういう至福をご主人が味わっている姿を想像すると、本当にほほえましい。