渡辺篤史の建もの探訪ー子育て家族の明るい箱(二宮博・菱谷和子、ステューディオ2アーキテクツ)

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感想: 

近所のお庭からの、この景色も見納め。
今日から重機が入って、木立はアッと言う間に姿を消していく。
分譲住宅に、なるのだって。
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「子育て家族の明るい箱」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/6
子育て空間。参考になりつつも、気になることひとつ。
 
            ◇ ◇ ◇
 
天井高5mの真っ白な箱の中心には、ダイニングテーブル。
ぴかぴかに明るくて開放的な大空間で、子供達はのびのびと手を広げられる。
屋上テラスという家の中の外で、子供達は安心してはしゃぎ回れる。
子供達は、勉強する時も眠る時も、台所で立ち働くお母さんをすぐ近くに感じられる。
家族で囲むテーブルが、その時間と空間の真ん中。
すごく温かい子育て空間だと思う。
そして、子供達が巣立っても、子供室は空っぽの空き部屋、になるわけでない。
2階フロアの風通しが、ちょっとよくなるだけのこと。
 
いろんなステージでの家づくりがあるけれど、
のびのびと子育てできる自分たちらしい場所を、
そんな思いで取り組む家づくりは、やっぱり特別だ。
私も、こんなお家で育ったんだ、ここが愛すべき実家だ、
そういう場所を、我が子に作ってあげたい。
社会人になったら、ちゃんと家を出て生活できる大人になってほしい。
だからこそ、特別な子供の時間を贈ってあげたいと思う。
子供はどんどん成長する。家は時間も空間もどんどん変化する。
捉えられないそれらの変化の中での家づくりは、すごく難しいと思うけれども。
 
            ◇ ◇ ◇
 
ひとつ気になることがある。
このお家は玄関を入った瞬間から、家族のためだけの空間、という印象があることだ。
 
玄関は、玄関ホールを兼ねた多目的スタジオ、となっていて、
お客さまをお迎えする場というより、ガレージのような家族の基地のような雰囲気。
私が訪ねていって玄関を開けたら、
あ、失礼しました。。。
という気持ちになると思う。
ちょっと雑然としていて、玄関ホールとするにはあまり素敵ではない。
 
誰かをお招きする時は、2階の気持ちのよい食堂に上がってもらうだろう。
階段を上がるとすぐ、家族のワークスペースとなる長ーい造作の机。
机を使う側はなんとなく落ち着かないし、
訪れてすぐワークスペースを目にしてしまうのも、申し訳ない気になる。
  
ダイニングテーブルに置かれた椅子は、 家族それぞれのお決まりの椅子。
子供達用のそれぞれの色のStokkeと、ご主人用、奥様用とデザインの違う椅子。
訪ねて行って、どうぞ、お掛けくださいな、と言われても、
すいませんねぇ、ご主人様のお椅子をお借りします。
と、きっと私は思う。そして、ちょっと申し訳ない気持ちで過ごすと思う。

1階の玄関ホールとスタジオとの間には、美しいつい立てでもよし、
可動式の真っ白な間仕切りでもよし、そんなものを据えたい。
お招きした人への敬意も表せられるだろうし、
スタジオをリビングやトレーニングスペースとして使う場合も、
心を落ち着けて過ごせると思う。
 
2階は、ワークステーションは階段の逆側にしておきたい。
逆側には観葉植物があるだけだったと思うから、不可能ではなかったのではないか。
そして、誰のお気に入りの椅子かは内緒にできるようなダイニングチェアを
そっと据えておきたい。
 
子育てを楽しむ中で、子供も大人もお招きする機会だって必ずあると思う。
だからこそ、私だったらもうほんの少しだけ、
「公」の動線や目線を大切にしてみるだろうなと思うのだ。
そういう敬意と準備がある、ということは、「家」に必要な要素だと思う。