がけ条例にかかる土地でも建物の安全を確保し快適性も損なうことのない計画・かわつひろし建築工房 川津悠嗣さん


 
がけ条例にかかる土地でも建物の安全を確保し快適性も損なうことのない計画は可能です。
 
がけ条例についてかわつひろし建築工房 川津悠嗣さんに伺いました。
 

お話を伺った建築家

 

ユーザー かわつひろし建築工房 川津悠嗣 の写真
福岡市中央区小笹3-13-25
092-524-9178

 

がけ条例とはどのような条例ですか?

 
建築基準法第19条4項に規定されている「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」に基づき、各自治体で定める条例です。
 
分かり易く言えば、限られた土地を有効利用するため、がけの上・下に建てる居室のある建物の安全を担保するために定められた条例です。
 
例えば、福岡市建築基準法施工条例では第5条(がけに近接する建築物の制限)「がけ(地表面が水平面に対し30度を超える傾斜度をなす土地をいう。)の高さ(がけの上端と下端との水平距離をいう。)が3メートルを超える場合においては、当該がけの上にあっては当該がけの下端から、下にあっては当該がけの上端から水平距離が当該がけの高さの2倍に相当する距離以内の位置及び当該がけには、居室を有する建築物を建築してはならない。」と定められています。
 
しかし、熊本市では上記の「3メートル」が「2メートル」に、高さの「2倍」が「1.5倍」となっています。このように、各自治体において規定内容に差異があり、該当地域の条例の確認が必要となります。
 

がけ条例にかかると擁壁が必要になるのですか?

 
必ずしも必要になるわけではありません。
がけ条例の緩和規定に該当する場合には、擁壁を設けずに建築できる場合もあります。
 

 

安息角とはなんですか?

 
土などがそのまま何もしなくても崩れない傾斜角度のことです。
 
粘土分の多い粘性土では一般的に30度とされているなど、それぞれの土の性質により定められています。
傾斜地の安定性は土質調査や検査により判断できますが、いずれにしましても、30度を超える傾斜地については「何らかの対処」が必要となります。
 

がけ条例にはどのような緩和規定があるのでしょうか?

 
緩和規定に関しても各自治体において内容に差異がありますので、ここでは福岡市を例に挙げます。
下記に挙げる要件のいずれかに該当する場合においては、がけ条例の建築制限が適用されません。
 

  1. 擁壁の設置により、がけの崩壊(建築物の安全性を損なうおそれがあるものに限る。)が発生しないと認められること。
  2.  

  3. 地盤が強固であり、がけの崩壊が発生しないと認められること。
  4.  

  5. がけの上に建築物を建築する場合にあっては、がけの崩壊により当該建築物が自重によって損壊、転倒、滑動又は沈下しない構造であると認められること。
  6.  

  7. がけの下に建築物を建築する場合にあっては、次のいずれかにより、がけの崩壊に伴う当該建築物の敷地への土砂の流入に対して当該建築物の居室の部分の安全性が確保されていると認められること。
    ア:土留施設を設置すること。
    イ:建築物のがけに面する壁を開口部のない壁とし、かつ、当該建築物の居室の部分を当該建築物への土砂の衝突により破壊されるおそれがないと認められる構造とすること。
  8.  

  9. がけに建築物を建築する場合にあっては、前2号に該当すること。

 
1は擁壁が設けられている、もしくは設ける場合になります。この場合の擁壁は検査済証等が必要となりますが、既存擁壁外観状況チェックシートにより、設計者が安全性を確認したものもこれに準じます。
3,4,5は下記をご覧下さい。
 

がけ条例を基礎の作り方でクリアできる場合もあるのでしょうか?

 
がけの上に建築物を建築する場合は、上記緩和規定に該当する自重によって損壊、転倒、滑動又は沈下しない構造となるように基礎を造ることでクリアできることもあります。
 
例えば基礎の底面をがけの安息角より深く根入れする深基礎とすることが考えられます。
 

 

杭を打つことによってがけ条例をクリアできる場合もあるのでしょうか?

 
上記の基礎の造り方と同様に緩和規定に該当する場合もあります。
杭により自重をがけの安息角より下の地盤に伝えることで建物の安全を担保出来ると考えられます。
 
但し、近年多発している大雨により土砂崩れが起こる場合、建物下の地盤が流される場合も考えられますので十分な検討が必要です。
 

R.E.Iの場合はがけ条例をどのようにクリアしたのですか?

 
REIの敷地は全体が傾斜しており、がけの途中に建てる必要がありました。
 
接道が斜面の低い側になるため、道路より2層分の高さはコンクリート造で擁壁のように土を押える形にしました。
それより上は自由に計画出来ましたので、本体をコンクリート造、はなれ部分を木造としました。
 
敷地の山側は隣地の間知石積擁壁があり、これが崩れた場合に安息角に達する土量を算出し、それより上部に窓を設けることで建物の安全を確保し、快適性も損なうことのない計画としました。
 

 

がけ条例にかかる土地の購入前の相談にのっていただけますか?

 
もちろんです。但し、がけの状態は様々ですので漠然とした状況ではお答えにくいこともあります。
 

がけ条例にかかる土地に建つ建物のリフォームも引き受けていただけますか?

 
お引受できます。
但し検討の結果、建物そのものの安全が担保出来ず、リフォームすることが難しい場合があります。
また、安全を確保するために、リフォーム出来ることが限られる場合があります。
 

がけ条例にかかる土地を購入しようとしている方にアドバイスがありましたらお願いします

 
土地はひとつとして同じ条件はありません。
斜面を含む土地は景観など色々な点で平らな土地にない魅力を持っています。
 
また、その土地は比較的安価に売買されていることもあります。
それは土地の整備や建物にかかる費用が膨らむことが予想されるからです。
 
専門家に相談し、建物の建築可能な形状や費用などを確認し、納得した上で購入をお考えになることを勧めます。
 

 

かわつひろし建築工房 川津悠嗣さんのがけ条例・設計事例

 

画像 建物の名称 紹介文
Y.M.P

自然公園内の別荘地に建つ住宅です。

R.E.I

前面道路は4mの狭さにもかかわらず交通量が多く、左右はRC造の4階建以上の建物、奥はさらに高いところに木造2階建が建つ傾斜した谷間のような敷地でした。風致地区の規制やガケ地条例を検討し、建物は土留め壁として存在するようコンクリート造となっています。

K.H.K

斜面を造成した古い住宅地の中にあり、約5mの高低差をもつ道路に面した敷地にこのアトリエ付住宅は計画されました。
近隣を考慮し2階建に見えるように造成地盤を掘り別の入り口を設け、地価のアトリエ部分を居住部分より独立させています。

 

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