板倉工法・インタビュー・有限会社矢田義典設計室 矢田義典さん


 
板倉工法は壁材に横板を用いた簡素な木造建築の伝統工法です。
板倉工法を採用することで木の良さを最大限に活かすことができます。
板倉工法について有限会社矢田義典設計室 矢田義典さんに伺いました。

お話を伺った建築家

 

ユーザー 有限会社矢田義典設計室 矢田義典 の写真
愛知県名古屋市名東区社台1-187
052-771-2592

貴社が板倉工法を手がけるきっかけがありましたら教えて下さい

 
「八幡山の家」と「配津の家」の二棟を板倉工法で手掛けています。
 
最初に八幡山の家で板倉工法を採用することになったのですが、このきっかけは少し不思議な感じで、お施主様が購入予定の土地に、「板倉工法で住宅を検討される方にお売りします。」といった建築条件が付記されていました。
それ以外には条件はなく、設計者、施工者は自由に決めてよいことになっていました。
お施主様から少し不思議な条件が付いているのだがどうしてもその土地を購入したいので、「板倉工法を調べて下さい。」と相談を受けたことが板倉工法に取り組むきっかけとなりました。
 
偶然にも名古屋には板倉工法に積極的に取り組んでおられる設計者がおられ、その方は知り合いでもあったので相談や実作を見学させて頂き、板倉工法の良い点、イマイチな点などを研究し、十分にお施主様に満足頂ける住宅が設計出来ると判断し、板倉工法の採用を提言致しました。

板倉工法のメリット・デメリットを教えて下さい

 
板倉工法のメリットは、「木の良さを最大限に活かせる。」点にあると思います。
木造の良さ、木の持つしなやかな構造が特徴ではないでしょうか。
 
デメリットは少し野暮ったいデザインになりがちなところでしょうか。特に気にならない方は板倉工法で十分かもしれませんが、洗練されたものを望まれる方には難しいのかもしれません。
また、構造認定、防火認定を板倉工法では取得されている点もメリットかもしれません。

板倉工法の価格は一般的な木造在来工法に比べてどうなのでしょうか?

 
一般的な在来に比べ割高だとは感じませんでした。
 
ただ、一件目の八幡山の家は手刻みで行ったため少し高かったと感じています。
工法のみの比較は難しいですが建設場所や望まれる住宅の雰囲気で価格は変わるのではないでしょうか。
 
八幡山の家は傾斜地に建設しているので地盤補強にお金がかかりました。
また、お施主様が望まれている住宅は少しモダンなものであったので、素材や板倉工法以外の施工にお金がかかっています。
板倉工法と在来工法では金額差はないと思います。
 

板倉工法の壁倍率は一般的な筋交いに比べてどうなのでしょうか?

 
板倉工法では構造認定を取得されており、壁倍率は2.2倍でした。
なので、片筋交いの2倍よりも倍率は優れています。
 
また、柱、梁が表しになることが多いので、無粋な金物は使用出来ません。
そのため、少しだけ特殊な金物、八幡山の家ではコボットのDボルトや引き抜き力に対応した込み栓を採用しています。
八幡山の家は正方形の単純な平面形で配津の家は平屋なので、特に構造で頭を悩ませたことはなかったです。
 

Dボルト

↑左柱にDボルト使用

込み栓

↑込み栓
 
 

板倉工法の場合、断熱はどのように行っているのでしょうか?

 
「八幡山の家」は壁には板倉工法の防火認定を取得した工法を採用しています。
この工法は板倉材(t=30mm)の外周部にさらに板材(t=25mm)を全面に張らなければなりません。
なので板材が合計でt=55mmの厚さになります。
 
その外側に通気層を取り、漆喰仕上げを(下塗り+中塗り+仕上)施しています。
ですから検討の結果、十分に断熱性能が確保されていると判断し断熱材は入れていません。
 
屋根には野地板の外側にスタイロフォームEX(t=45mm)を使用しています。

「配津の家」は板倉材(t=30mm)の外側にスタイロフォームEX(t=45mm)で断熱をしています。
屋根には普通にグラスウールを使用しています。
 

↑板倉材の直行方向に板を張っています

↑野地板の外側に断熱材を使用しています
 
 

板倉工法の場合、プレカット工場でプレカットできるのでしょうか?

 
プレカット工場で加工出来ます。
「八幡山の家」は大工さんの意向で手刻み加工しています。
柱、梁から板倉の加工まで手刻みで行っています。
 
「配津の家」はプレカット工場で加工し施工しています。
施工上の違いは特にはありませんでした。
ただ、出来具合は「八幡山の家」の方が良いです。
丁寧な仕事や材料の吟味がなされているため見た目が違います。
コストの問題もありますが、構造材がダイレクトに仕上げとなるため施工者、設計者の考えが直に反映される手刻みが良いかもしれません。
 
また、「八幡山の家」では柱、梁も産地(吉野)までお施主様と出向き、天然乾燥材を使用しています。
プレカット加工の場合も工場まで出向き、材料の吟味は行いました。
板倉工法の加工はプレカットでも手刻みでも問題ないですが、一手間かけることが仕上げの善し悪しに反映されると思います。
 

手刻み

↑手刻み

手刻み

↑手刻み
 
 

板倉工法の家を建てたい方に何かアドバイスがありましたらお願いします。

 
板倉工法で設計と施工監理をし、特に難しい工法ではないですし、コストが高くなるとも感じませんでした。
ただ、一手間かけること、手間を惜しまない施工者や設計者に依頼されることが大事かと思いました。
このあたりはあまりコストに反映されない部分なので重要です。
 
また、お施主様の努力も欠かせません。
労を惜しまない設計者、施工者といろいろと吟味しながら進めることをお勧めします。
 

有限会社矢田義典設計室 矢田義典さんの板倉工法設計事例

  

画像 建物の名称 紹介文
八幡山の家

板倉工法を勉強し採用しています。木の温もりが伝わる暖かな家が出来たと感じています。外壁は漆喰を採用し周囲の景観にマッチさせることを心がけました。

配津の家

中庭(テラス)を取り囲むように各部屋を配置することで、どの部屋にも十分な採光がとれています。天然木や珪藻土仕上げの壁・床で調湿・蓄熱効果等があり一年中快適に過ごすことができます。