渡辺篤史の建もの探訪ー”箱階段“中心につながる家(増田啓介、増田良子・増田アトリエ)

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感想: 

 渡辺篤史の建もの探訪 。オープニングの音楽を聴いて、「『建もの探訪』お久しぶりです。」と思わずテレビに会釈をしまった。何しろ15、6年ぶり。
 
 この番組を、中学生の私は毎週土曜日の朝に欠かさずに見ていた。中学生の私は、ただの四角い部屋の集まりでない建物にびっくりし、空間の美しさに夢中になった。たぶん、建築家が設計する建物というものを知って、興味を持った最初の体験なのだと思う。どのようにこの番組から遠ざかってしまったのかはよく覚えていないけれども、そんな中学生だった私は、ずいぶん長い間この番組から離れ、そして「そのうち施主になるやもしれない主婦」となった。
 
 せっかくの番組との再会。中学生の私も持った「建物そのものの美しさや面白さの感動」に加えて、自分の家を建てるなら、という思いを持った主婦としての「こんな暮らし方もあるのだなあ、いいなあという気づき」、そして暮らしを営む主体としての経験があるからこその「『これはちょと、、、』や『現実的には、、、』という疑問や意見」を書いていけたらと思う。
 
 さて、今回の「建もの」は、「埼玉県さいたま市・大原邸 -”箱階段”中心につながる家」。古くからの住宅密集地に建つ、敷地面積79㎡の住宅だ。
 私がこのお家にタイトルをつけるのならば「木登りする家」とする。
 
 玄関を入ると、6段ほどの階段があって、それを上がると踊り場のような、舞台のようなスペースに出る。この階段は、タイトルにある通り「箱階段」と名付けられている。この箱階段は下が収納スペースになっていて、ちょうど家の中央に据えられているのだが、私にとっては、これがまるで木の幹のように感じられた。光を求めてそれぞれが重ならないように螺旋状に広がる枝葉のように、この箱階段を取り囲むようにして、1階の寝室、2階のLDKと子供部屋、テラス、そしてさらに屋上テラスと和室、と、空間が配されている。1階から屋上までのワンルームのような家なのだ。
 
 リビングで腰をおろせば、それは木の上の枝に腰をかけるよう。最上部の畳にねっころがれば、それは葉っぱの上で一眠りするよう。もし私がこの家を体験したら、そんな気分になるのではないかと思った。だから、「木登りする家」。
 隣家が迫るシンプルな箱型のたてものは、内部にはたっぷり光が注いでいて、上へ、上へとつながって広がる空間が、とても楽しかった。
 
 この住宅に暮らす大原家は、3歳と1歳のこどもを含んだ4人家族。私が4人家族としてこの家に暮らす、ということを想像してみると、正直なところ、ちょっとした息苦しさや不安も感じた。
 こどもが、小学生、中学生、高校生になったら?
 ワンルームのようなこの家では、それぞれに「自分の部屋」を持てるわけではなく、そのことを、私は上手にイメージできずに窮屈にも感じた。
 
 4人で上手に、どうやって空間を使いこなすかしら。どんどん大きくなる家族それぞれの個性を、私はどうやってうまくまとめられるかしら。「木登りする家」の楽しい空間を思い出しては、そんなことを勝手に楽しく試行錯誤している。