耐久性がある土壁・建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤さん


 
土壁は耐久性があります。中国・アフリカ・ヨーロッパなどでは築4~500年の土の家が今でも現役で使われています。
 
土壁について建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤さんに伺いました。
 

お話を伺った建築家

 

ユーザー 建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤 の写真
愛媛県東温市河之内4885 「一畳庵」
089-966-4288

 

土壁とはなんですか

 
土を主に使用した壁で厳密な定義はないはずです。
仕上げに使用する表面材と壁体を形成する本来の土壁の両方を指すようです。
以降は壁体としての土壁についてのみご説明します。
主に3種類あると考えられます。
 

  1. 塗り壁:竹小舞や木摺などを骨にして粘土系の土を塗る工法。柱梁に持たせるので自立しない。
    (塗り壁という言葉を使っていますが、正式名称は知りません。ご存じの方がいらっしゃいましたら是非お教えください。)
  2. 「版築造」:粘土と真砂土の中間ぐらいの粘性の土に石灰を混ぜて押し叩いて固める工法。
    土だけで自立し、構造体になる。
  3. 「練り塀」:主に塀に用いる工法だがたまに建築にも用いられる。
    小舞等の骨を使わず、粘土系の土だけを層状に塗り足す自立する壁。
    石や瓦などを併用することがある。

 
このうち一般的に住宅に使用される土壁は、①の塗り壁です。
塗り壁の中には柱の幅内に納まる「真壁」と、柱の外側に塗り足して柱を壁内に埋め込む「大壁」があります。
「土蔵造り」は外大壁、内真壁の工法です。
 

 

貴社が土壁の家を手がけるきっかけがありましたら教えてください

 
中国福建省に点在する版築造の巨大な土楼の一つに宿泊した時、空気の柔らかさに驚きました。
板敷きの上に毛布一枚のみという状態なのにぐっすり眠ってしまいました。
まるで故郷の実家に帰ったように身体が空気に同化したようでした。
ここで理屈を超える土の威力を体感したのがきっかけです。

土壁のメリット・デメリットを教えてください

 
以下は、一般的な塗り壁についてご説明します。
 
メリット:

  1. 言葉にするとウソ臭くなってしまうほど、多くの計り知れないメリットがあります。
    断熱性、調湿性、蓄熱性、放射熱、室内空気の温度変化などがありますが、
    これらのことはどこにでも載っているので省略させていただきます。
  2. 意外かもしれませんが、耐久性があります。
    中国・アフリカ・ヨーロッパなどでは築4~500年の土の家が今でも現役で使われています。
    条件さえ整えば、コンクリートよりもむしろ長持ちすると言えます。
  3. シンプルです。極めれば。
  4. 世界中どこでも通用します。
    つまり古民家風とは限らず、あらゆる表現に適います。

 
デメリット:

  1. 土壁は伝統構法の木造とセットであるべきなので、伝統的な技術を持つ大工さんと左官屋さんが必要です。
    このような伝統技術を持つ職人さん達は、近年数が激減しているようで、探し当てるのはかなり苦労します。
    真壁では土の威力をはっきり体感するのはなかなか難しいかもしれません。
    一方大壁をこなせる左官屋さんはさらに希少です。
  2. 土壁はどの工法でも水害に弱いのが弱点です。
  3. 左官屋さんの腕次第で、強さ、美しさ、安さが大きく左右されます。
    かえって中途半端な職人さんほどいろいろな条件を付けられ、高く請求されてしまいます。
    ちなみに2018年7月豪雨で約2Mの水流に襲われた築180年の豪商の民家の土壁は僅かな損傷だけで健在です。
    当時の職人技術の高さには驚かされます。

 

 

既存の家を土壁にリフォームすることも可能でしょうか?

 
目的によります。

  1. 本来の土壁の良さは、厚い壁体が生むものだと考えています。
    その効能を活かすかどうかの問題です。
  2. 構造的な問題もあります。
    プレカットの木造は必然的に金物に強度を依存した構造になりますが、土壁の中で鉄は錆び易くなります。(土は中性なので。)
    また、伝統構法は地震に対して、全体が連動して揺れながら持ちこたえる構造で、貫+小舞+土の連携プレーが大切です。
    伝統構法の柔らかな強さと土壁の組合せが構造的なメリットでもあります。
    この点をどう捉えるのか、という問題です。
  3. もし表情だけ土壁風にする、と割り切るならば、なんとでもなります。
    しかしこの志向は本来の「土好き」としては?マークですけれど。

 

土壁をDIYで作ることも可能でしょうか?

 
はい、可能です。
セルフビルドにはもってこいの工法です。
 

土壁のカビ対策はなにか行っていますか?

 
良質の土を、適切な時間に適切な方法で寝かせて使用し、一定の期間が経つと黒くなることがあります。
これはカビではありません。
実はこれまで調べた土壁でカビが気になった記憶がありません。(経験不足かもしれませんが?)
 
しかし、設計上、風通しを常に工夫することは土壁に限らず重要です。
完璧な高気密よりも肌では感じないほどの微妙な通気性を持たせ、単位体積当たりの高断熱性を求めるよりも、壁体と空間全体の断熱性+体温に近い放射熱と適度な対流、という総体的な空気環境を設計しています。
自ずとカビ対策になっていると考えています。
 

 

土壁の上に塗装することも可能でしょうか?

 
土壁と漆喰の組合せは絶妙です。
言わばダウンフェザーとゴアテックスのように、呼吸しながら防水する性質と断熱性がうまく組み合わさっており、一枚壁でこれほど多機能な壁は現段階では他に存在しないのではないでしょうか。
半端な思い付きで特別な塗装を試す必要性がなかった、というところです。
 
土壁の効能を殺す処理方法ならいくらでも存在しますが、呼吸を保ちながら何らかのコーティングを試す場合は、そのたびにメーカーと職人と調整しながら実験する必要があります。
(信用できるマニュアルはないと思いますよ。)
 

土壁の作り方を教えてください

 
土壁用の土は、腕利きの左官屋さんが吟味して「土屋」さんと呼ばれる業者に発注します。
その土に藁スサを混ぜて数カ月かき回しながら寝せて置きます。
できた土を鏝台にある程度盛り、鏝で掬って塗りつけます。
 
荒壁なら団子にして小舞に投げつけたりもします。
意外に簡単で作業は速いです。(出来映えは別として)
 
しかし、その前に小舞を組まねばなりませんでした。
具体的には直接ご相談ください。
 

↑土壁ワークショップの様子
 

土壁の家が得意な工務店なども紹介して頂けますか?

 
大工さんと左官屋さんを個別に探す必要があります。
左官屋さんの中には活動範囲が広い職人さんも少数いますが、大工さんの場合は活動範囲が特定の地域に限定されることが殆どです。
 
2種の職人がセットになっている工務店、というのは、地域限定です。
つまり地域によって異なるので、具体的には直接ご相談願います。
 

土壁の上に漆喰を塗ることも可能でしょうか?

 
最も相応しい組み合わせです。
 

土壁の材料はどのようなものでしょうか?

 
土に藁スサを混ぜて発酵させたものです。
土は地域によってさまざまな特徴があります。
また、荒壁用と中壁用では製作過程が異なります。
 

土壁の場合、断熱はどのようにするのでしょうか?

 
土壁自身が断熱材です。
ただし単位長さあたりの断熱抵抗は、スタイロフォームやグラスウールの約1/5と考えられるので、西日本なら200mmぐらいの厚さは欲しいところです。
しかし、多くの伝統民家は真壁で壁厚は100mm以下が一般的です。
瀬戸内地方やこれに準ずる気候帯であればこれで十分だとする考え方もあります。
 

外壁を土壁にすることも可能でしょうか?

 
勿論OKです。
そのための素材です。
ただし、庇をつけて漆喰あるいは大津壁などにする必要があります。
敷地境界線等の関係で庇を付けられない場合は、周囲環境に合わせた技術的な工夫が必要です。
 

鉄骨+土壁の家の設計で工夫した点を教えてください

 
これは世界的にも歴史的にも大変珍しい組み合わせだと考えています。
構造体の揺れと壁体の揺れが異なるはずなので、この2つを「縁を切ってつなげる工夫」をしています。
いわばエクスパンションジョイントのような考え方です。
 

 

土の教会の設計で工夫した点を教えてください

 
これは木造モダニズム建築の改装ですが、伝統が破壊された時期だったので、モルタルの外壁でした。
モルタル壁を土壁に変えることで木造建築に命が吹き込まれると感じました。
 
土壁や漆喰は世界中で使われて来た伝統素材であり、教会建築にも調和することを確信していたので、技術的な工夫よりも、教会員の方々への説明を工夫しました。
また、土壁はセルフビルドが可能な工法であり、教会はもともと教会員の方々が協力し合って建てる風習があったので、これがうまくマッチしました。
木造の構法や庇の処理など、土壁の周囲の点でいろいろな工夫をしています。
 

 

土壁の断熱性はどれほどでしょうか?

 
概ね、一般的な断熱材(スタイロフォーム、グラスウール)などの1/5ぐらい、というのが過去の実験データです。
通常の断熱材は壁体とは別に付加する形になるので、2重(以上の)壁になります。
 
一方、土壁や木は、壁体=断熱材なので、1枚の壁体がそのまま断熱材になり仕上げにもなる、というシンプルさがあります。
全体の厚みで断熱性能を発揮するので、予定する断熱性能に合わせて厚さを決めることができます。
 

土壁とする場合の工期はどれほどでしょうか?

 

  1. モノにもよりますが、約1年以上、というのが一般的です。
    土壁の施工の速度は意外に速いのです。 
    荒壁、中壁、仕上げ、という工程の間には一定の乾燥時間が必要ですが、その間に他の作業を進められるので、工程を工夫すれば一般的な在来木造工法と大差はありません。ただ、中塗り~仕上げの間は1年ぐらい空けた方がよいので、一旦完成して入居後1年ぐらいたった後に最終仕上げをするのがベストです。
  2. 木材の伐採や、左官工事には、適切な時期があります。
    また木材や土を寝かせる期間も必要です。
    設計期間も含めて時間配分が複雑なので、ゆとりが必要です。

土壁とする場合の工事費はどれほどでしょうか?

 
大壁(土蔵造り)の場合、設計的な工夫を行い、上手い施工業者と組めば、80万円/坪で可能だと考えています。
しかし、職人の個人差、地域差などは非常に大きいので、現場に応じて調べる必要があります。
 

土壁とする場合の構造上のメリット・デメリットを教えてください

 
メリット:
金物を極力使用しない伝統的な木造構法に、貫+小舞+土壁という組合せを想定して説明します。
全体が多少揺れながら支え合う構造形式なので、一か所に応力が集中せず、負荷が分散します。
つまり、筋交いや金物に頼る構造ではその部位に応力集中が過度に起こって破壊されれば全体が一気に弱くなることがありますが、そのようなことが起こる確率は低く、耐震性に余裕がある、と考えられます。
 
デメリット:
壁量の総長さは、筋交い・合板などを用いる工法よりも長く採る必要があります。
壁が多くなる分、熱容量が大きくなるので熱環境的にはメリットとなります。
 

版築造とはどのようなものですか?

 
塗り壁の土よりもややサラッとした土(シルト?)を用いて、これに石灰と少々の水を混ぜて、型枠に中に入れて搗き固めます。
土のコンクリートのような工法です。
木造軸組みや小舞を用いず、土だけで自立します。
かつては多くの塀や建築物に使用されていたようです。
平城京の土塀は版築造で再現されており、構造設計もされています。
 
一般的に壁厚が50cm以上あり、伝統的な中層住宅の1階の壁厚は1M近くになります。
しかしこれほど厚い土壁の場合、断熱性は厚さ分だけ高くなるわけではなさそうです。
(実験住宅による実験結果です。)
広く世界中の伝統住居で用いられています。
中でも中国の客家の土楼は有名です。
ドイツには約200年前に建てられた7階建てのビルが健在です。
現代でも多くの建築家が版築造の建築を手掛けています。
 

版築造の例:〇〇土楼

↑版築造の例:〇〇土楼
 

練り塀とはどのようなものですか?

 
実は私もまだよく理解していない分野ですが、粘土を塗り重ねて作る自立した壁のようです。
塀に使用されることが殆どですが、中には建築の外壁面にも使用されています。
小舞などの骨を使わず土だけで壁を作ることができます。
土だけでは弱いので石や瓦などを挿入することがあります。
これは土の量を減らして安く仕上げるためとも言われます。これから勉強します。
 
 

練塀建築の例:M家堆肥舎

↑練塀建築の例:M家堆肥舎
 

珪藻土と漆喰(石灰)との違いは何でしょうか?

 
珪藻土はかつて七輪に使用していたサラサラの粒子の細かい土ですから、それ自体で壁に付着できません。
必ず溶媒と接着剤との併用が必要になります。
水と混ぜれば塗ることができる石灰とは異なります。
この溶媒・接着剤がどのような物質を使用しているかが気になる所です。
本来のエコとは何か?という問題に突き当たります。
 
又、単位体積あたりの吸放湿量は高いかもしれませんが、室内環境に影響するのは吸放湿の総量です。
厚く塗る素材の方がより自然な吸放湿だとも考えられます。
また、珪藻土は限定素材であり、土や石灰のように地球上いたる所で採れる一般的な素材ではありません。
採取現場の環境破壊を考慮することも大切だと思います。
 

建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤さんの土壁の建物・設計事例

 

画像 建物の名称 紹介文
土の教会

地元の木材による伝統構法の手法を用いた建築です。 建具はすべて木製です。
断熱材は無農薬米の籾殻を薫炭処理したものを使用しています。 100%自然素材です。
アトピー等のアレルギーをお持ちの信者さんもいたので、誰でも安心して使用できるようにしました。

鉄骨+土壁の家

規模の大きな個人住宅であり、コスト的にも恵まれておりましたので、それなりに希望は多くありました。一つ一つの要求に応えることと、大枠を決めて進めることは別次元の作業になり、そのやりくりに努力しました。

土壁の家-N邸

土壁の良さを知っていただくために実例を体験していただきましたが、それが一つの契機になっていたかもしれません。デザイン的にも居住性の面でも優れているということが理解され、方向性が固まったという感じでした。コスト面でかなり格闘しましたが、うまく射程距離範囲内に納まり、大変満足されています。

土壁の家-I 邸

木造土壁の良さや、設計の良し悪しについて知識のあるクライアントで、打合せはスムーズに進みました。設計者として苦労した記憶がほとんどない建物です。

 

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