崖地の高低差を利用することで多様な変化を建物のデザインに取り込む・AL architects 佐野正樹さん


 
崖地(斜面)の場合、高低差を利用することで垂直方向の移動が必然的に伴うため、眺めや空間体験などのドラスティックで多様な変化を建物のデザインに取り込むことが可能になります。
 
崖地の建物についてAL architects 佐野正樹さんに伺いました。
 

お話を伺った建築家

 

ユーザー AL architects 佐野正樹 の写真
福岡市中央区大名1-15-7-805
092-724-6015

 

貴社が崖地の建物を手がけるようになったきっかけがありましたら教えて下さい

 
船越の別荘の場合は、同じ別荘地内にもう一軒別荘を持っていることもあり、その離れとして一日中海を眺めて暮らせるような場所を望まれていました。
  
また同時に、集中して執筆活動が行えることと、海遊びができることという3つの条件がお施主さんからは求められていました。
 
道路から海へと直接下りてゆくことのできるこの敷地は、建物の配置を慎重に検討することで、これらの3つの条件をクリアすることができると思われたので、設計を行なうようになりました。
 

崖地に建つ建物のメリットとは何ですか?

 
崖地(斜面)の場合、高低差を利用することで垂直方向の移動が必然的に伴うため、眺めや空間体験などのドラスティックで多様な変化を建物のデザインに取り込むことが可能になると思います。
これは、平らな敷地ではまずつくりだすことのできない、崖地ならではのデザインのまとめ方だと思います。
 
また斜面という敷地の特性上、屋上(屋根面)へのアプローチを確保しやすいため、屋上階を生活空間の一部として利用することができる点はメリットといえるのではないでしょうか。
 

 
 

崖地に建つ建物のデメリットを教えて下さい。

 
福岡市のガケ条例の指導に該当するならば、鉄筋コンクリート造の擁壁や土留め等の何らかの対策を講じる必要があります。
当然、建物とは別に費用がかかるため、コストアップにつながります。
 
また、工法そのものが限られてくる上に、場合によっては基礎も大がかりな工事が必要となり、総工事費のなかに占める基礎部分にかかる費用の割合が大きくなります。
 
パワーショベルやクレーン、ブルドーザーやコンクリートポンプ車などの建設機械の使用も制限される場合があり、それによってコストや工期が影響を受ける可能性もあります。
 

崖地に建つ建物の設計の際に注意していることを教えてください。

 
建物が斜面と敷地内のどの位置で、どのような関係で接するのかということについては、基本設計の段階でいろいろな可能性を探るようにしています。
 
斜面に馴染むように建物を地中に埋もれさせるのか、斜面の連続性を突き破るように建物を土地に載せるのか、あるいは斜面との干渉を避けるために大地から浮かせるのかということについて、具体的な建物の意匠や建物内外の高さ方向のスタディ、アプローチの仕方なども含めてトータルにデザインをまとめるように心がけています。
 
またデザインの方針が固まった後は、構造計画やコスト管理、施工計画についても関係者の意見を聞きながら、気を配るようにしています。
 

崖地条例とはどのようなものですか?

 
福岡市の場合は、30°を超える傾斜をもつ斜面が“がけ”にあたります。
崖の上の段と下の段との高さの差が3mを超えるような場所に建物を建てる場合には、万が一崖が崩れても大丈夫なように、崖の高さの2倍の距離を崖の始まりから離して建物を建ててくださいというものです。
 
ただし、鉄筋コンクリート造の擁壁や土留めを建物とは別に築造するか、崖の下に建てる場合は崖に面した部分の建物の構造を鉄筋コンクリート造にする、崖の上に建てる場合は杭を施工するなど、安全と認められる措置を講じることで建物の建設が可能となります。
 
 

船越の別荘で工夫した点を教えて下さい。

 
はじめて敷地に立った時に、ゴツゴツと斜面に転がる数々の岩、生い茂る植生、足下から押し寄せる波の音と風のうねり、時々刻々と変化する海面の表情といった複雑で多様な自然の様子に圧倒されてしまいました。
 
それらの圧倒的な自然景観に対峙するかたちで、人工的でシンプルなコンクリートの塊を斜面から突き出すようにひっかけるというアイデアからデザインはスタートしています。
 
どのようにコンクリートの塊をささえるのかという技術的な解決法の模索、またコスト面の制約から構造上の決定がそのまま意匠として現れてくることに加え、無駄のないシンプルなデザインを求めるがゆえに、構造と意匠のすり合わせには、時間をかけて対処しました。
 

 
 

崖地ということで不安を持っている依頼者もいると思うのですがどのように依頼者の不安を解消しているのでしょうか?

 
崖地ということの不安としては、どのように建物を安定させた状態に保つのかという斜面が持つ形態上の不安と、地滑りや土砂崩れなどの自然災害が発生したときにいかにして危険を回避できるのかという性質上の不安の2点があると思います。
 
前者に関しては、土地の表面の形状もさることながら、地中の土の性質や地盤の状態に建物が影響を受ける部分が大きいので、きちんと地盤調査を行なったうえで、適切な方法で建物を支持する基礎の設計を行ないます。
 
後者に関しては、必要に応じてガケ条例の指導に準じた対処をするのですが、いずれの場合も信頼のできる構造事務所と協力して、適材適所なやり方での対策を選択するようにしています。
 

崖地に建物を建てたい方になにかアドバイスがあればお願いします。

 
適切な設計施工の期間をとって、キチンとした手順を踏んで計画を進めていけば、魅力のある空間づくりを行なうことは可能だと思います。
現に、条件困難であれば困難であるほど、敷地が特殊であれば特殊であるほど、おもしろいプロジェクトになっている事例はたくさんあるからです。
 
ただし、不安だと思うことは素直に設計者に伝え、話の内容が専門的な話あるいは技術的な話になったりするのでしょうが、どのような対策を取るのかについて自分たちが納得のいくまで説明をしてもらえるような、設計者との関係づくりは心掛けておいた方がいいと思います。
逆にいうと、そのような意思の疎通が図れそうにない相手であれば、本当に自分たちにふさわしいのかどうかをよく考える必要があると思います。
 
 

AL architects 佐野正樹さんの崖地の建物・設計事例

   

画像 建物の名称 紹介文
船越の別荘

糸島市の別荘地に建つ鉄筋コンクリート造2階建の別荘。同じ別荘地内にある別荘の離れとして、執筆活動に専念できるプライベートな隠れ家が望まれた。急峻な崖とその下に広がる一面の玄界灘という自然条件に対して、人為的活動の結果としてのシェルターをどのように対峙あるいは馴染ませるかが設計のテーマとなった。

 

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