◇「フルサット」という挑戦 ー コンテナ建築がつくる、新しい駅前の風景
2015年、北陸新幹線が開業しても、上越妙高駅前には広大な更地が広がっていました。
新しい街ができつつある一方で、人々が自然に集まり、過ごせる「居場所」がまだ存在していなかったのです。
そんな中、私たちは春日山駅前の「謙信交流館」の設計実績を評価され、人が集う駅前空間の設計を依頼されました。
依頼主の「街に居場所を」という熱意に応えるべく、初期投資を抑え、必要に応じて移設可能なコンテナを使った施設を提案。まず1本のコンテナを事務所として設置するところから、プロジェクトは静かに始まりました。
◇なぜ「コンテナ」だったのか
「コンテナ」という言葉は、多くの方々に興味を持っていただくきっかけとなると同時に、ご心配の声もありました。
しかし私たちは、以前からコンテナ建築の持つ「移設可能性」や「シンボル性」に、言葉にできない魅力と可能性を感じていました。
木造や鉄筋コンクリート造、鉄骨造といった建築物が19世紀から存在している一方で、コンテナ建築に代表される〈ユニット工法・プレファブ工法・可動性〉は、20世紀中頃に登場した新しい概念です。
これまでの建築が解けなかった問題を、この新しいアプローチが解決する可能性があると信じていました。
◇フルサットが目指したもの ー 商業施設ではなく「小さな町」
私たちが目指したのは、ひとつの大きな商業施設ではありませんでした。
それはまるで、吉祥寺の「ハモニカ横丁」や新宿の「思い出横丁」のように、小さな店舗が自然と連なり、独自の魅力が醸成されていく「小さな町」。
誰かがすべてをつくり上げるのではなく、町の成長とともに少しずつ形づくられていく場所。
その理念に最もふさわしかったのが「コンテナ」建築だったのです。
◇地域性・場所性をどう取り戻すか
20世紀の建築は、地域性や場所性を無視したグローバルな価値観の中で進化してきました。その結果、私たちは「どこにでもある町」を手に入れた代わりに、「ここにしかない町」を失いかけていたのかもしれません。
高田駅では「歴史的意匠の引用」、高田小町では「古建築の保存活用」が行われてきました。
その流れを受けて、私たちは「コンテナ」という20世紀を象徴する工業製品をあえて使い、新しい町に地域性と場所性を取り戻すという逆説的な挑戦に踏み出しました。
◇雁木文化からの継承
さらに、フルサットは上越の伝統である「雁木」文化を現代に引き継ぐ場でもあります。
ひとつは、私有地を公に開くという考え方。
コンテナとコンテナの間の空間や外部スペースを店舗同士で共有し、外からも気軽にアクセスできる構造にすることで、町に開かれた空間を実現しました。
もうひとつは、雪とともに暮らす空間の創出です。
かつての雁木町が雪を避けていたのに対し、フルサットではあえて雪と共にあることを選びました。かまくらや雪のトンネルといった「雪と親しむ空間」は、21世紀的な新しい雪国の可能性を感じさせます。
このようにして、フルサットはコンテナという素材を通じて、上越妙高という新しい町に「人の居場所」をつくり出しました。
それは単なる商業施設ではなく、人と地域、過去と未来をつなぐ、小さな都市の試みでもあるのです。