実際に住む高齢者のために配慮している点があったら教えて下さい。
1.「可変性」
入居された時点では健康であっても、生活をしていくうちに次第に介助や介護が必要になってきます。
また、同居しているパートナーがお亡くなりになり、お一人になることも想定されます。
高齢者住宅は短いライフサイクルで劇的に生活スタイルが変わっていくことが大きな特徴です。
設計において特に配慮している点は「住戸に可変性を持たせる」ことです。
「わかたけの杜」の50㎡タイプでは、可動間仕切りと可動家具によってワンルーム~2LDKまでの自由なプランの変更を可能にしております。

↑可変性のある住戸
2.「見る見られる関係」
私はこれまで「見る見られる関係」「気配が伝わる空間」を最も重要なテーマとして取り組んでまいりました。
高齢者施設には視覚的、心理的に自然や人が 触れ合える可能性を建築が用意することが必要だと考えています。
都市における高齢者の孤立や孤独死に対して「見守り」の重要性を説く風潮がありますが、や や一方向的で押し付けがましいものを感じます。
一方「見る見られる関係」や「気配が伝わる空間」は古来より下町の町家や長屋の路地裏に代表されるようなプ ライバシーを確保しつつ緩やかに気配が伝わる関係を見直し、現代建築に持ち込む試みです。
3.「差別化」
これまでの集合住宅は画一的で、外部から「我が家」を認識することはできません。
私は入居される方が「我が家」が認識できるよう住戸ごとに仕上げや色を変えたり、建物の形状を「ズレや分節」によって住戸毎の視認性を高めることでより愛着が持てる施設を目指しています。

↑住戸ごとに仕上げの違う外観
4.「バリアフリーの視線」
イスや車椅子に配慮したキッチンやトイレ、介助者に配慮した浴槽形状、必要な場所に必要な手すり、段差のない 計画、非常時のコールシステム、介護ベットを基準にした寸法体系など、これまで培ったノウハウを駆使して生活に配慮した設計をしていますが、「すべてをバリアフリーにする」は無いと考えています。
これからは老化の進行を遅らせる介護予防が重要です。
坂のある漁師町に驚くほど足腰が丈夫でお元気な高齢者がいらっしゃいます。
ある程度の段差や動作などのバリアーを残し、日々の生活の中で訓練になるようにすることも必要です。
通常の建築家が設計する豊かな空間を作りながらも、「配慮の眼差し」を持って設計することが可能です。