患者にとっての不安を和らげ、快適で、暖かい雰囲気のあるクリニック・株式会社古田建築設計事務所 古田 充さん
アメリカにおいて「良好な療養環境は、患者の治癒を早める」という発想に基づいた最近の研究により、その事実が徐々に明らかにされています。
クリニックについて株式会社古田建築設計事務所 古田 充さんに伺いました。
診療所・クリニックと病院の違いを教えて下さい
医療法により、20床以上の入院施設を持つ医療機関を「病院」、20床未満のものを「診療所及びクリニック」と呼びます。
病院の場合は、施設基準だけでなく管理体制などにも細かい規定があり、診療所でも「有床診療所」と「無床診療所」では、建築基準法、医療法上も様々な規定、規制が大きく異なります。
クリニックを設計する際に注意しているポイントを教えてください
まずはドクターに医療に対する想いを聞き、その医療方針に基づきコンセプトイメージを作り出します。
医療活動において、機能性を充分に満たし、そのうえ、患者に対するサービス、患者が受け取る印象やイメージ(目に入るもの、耳に入る音、肌で感じるもの、匂いなど)を重視します。
治療環境であるクリニックは、患者の心や体に働きかける空間、リラックス・安心・ゆとりが感じられる空間が求められています。
光・風・緑を感じる自然とかかわりのある空間、素材の選択、落ち着いた内装、バリアフリー、ユニバーサルデザインへの配慮などポイントにしながら、計画を進めていきます。
地域社会への働きかけの観点から、まちなみに対する建物の外観や看板までを考慮し、全体的、総合的にコーディネイトしていきます。
クリニックの動線計画で注意している点を教えて下さい
動線計画は、患者・ドクター・スタッフの動線を分離し、出来るだけ単純化することで、患者に分かりやすく、ドクターの動きが最も合理的になるように心がけています。
患者は、受付・待合・診察・処置・検査・会計などの流れをスムーズに行えるように計画し、患者同士がぶつからないように、移動距離をより短くします。
また同時に他の患者からの視線に気を付け、患者同士のプライバシーにも配慮します。
患者、カルテ、ドクター、スタッフと各々のつながりと移動を考えた動線の整理は、各室のレイアウト、医療機器・家具のレイアウトの重要なポイントとなります。
また、受付からスタッフが、待合室・玄関・トイレの入り口まで、患者の様子を視覚で追いかけられる配慮や工夫も大切です。
クリニックの設備計画で注意している点を教えて下さい
最近では、大型の医療機器の導入が増えてきており、設計時に考慮すべき重要な要素となっています。
レントゲン装置は、配置する方向、操作盤との位置関係、設置に必要なスペース、天井高、重量、X線防護の鉛入りの壁や天井、内装下地、電気容量、調光ができる照明器具など、設備や構造上の補強への対応が必要となります。
リハビリ機器も、電気の容量、コンセントの位置、重量、据え置くスペースを考えます。
処置室には、重量のあるベッドやオートクレーヴをどこに置くかなど、設計当初から必要な機器の検討をします。
電子カルテや画像処理のデジタル化、新たな医療機器の導入など、将来どのような形になっていくのかも考慮しながら、ドクターとメーカーとの打ち合わせを重ねて決めていきます。
また近年受付も大きく様変わりしています。受付には、コピー機・レジスター・レセコン・パソコン・ファックス・電話など、OA機器が所狭しと並んでいます。
カルテ棚も電子カルテへと変わっています。
これからもOA化、情報のデジタル化は、ますます進んでいくと思われます。電気の容量、コンセントの位置、カルテの流れや、収納スペースなども合わせて、受付スペースを整理していきます。
またWebを介した予約システムなどの採用により、待合室のあり方も変わっていくと考えられます。
クリニックの建築費用はどれ位かかるのでしょうか?
クリニックの建築費用は、ドクターの医療方針や診療内容、装備する医療機器などで変わる建物規模により大きく異なり、また敷地の大きさや状況によっても大きく左右されます。
診療科目ごとにおおよその採算目安とよばれる規模数値がありますが、診療内容、医師の人数、装備する医療機器などでかなり差があります。
特に、各室の大きさは、一般的なマニュアルでは、安全側の大きさとなります。
建物の面積が大きければ、それだけ診療内容も多くなりますが、建設費や維持費などの支出も増えてきます。
ドクターと打合せを行うなかで、私どもの過去の実績・経験をもとに、可能な部分は、合理化・省スペース・コストダウンを図り、予算に応じたコストマネジメントを行います。
クリニックを開業したい方にアドバイスがあればお願いします
私たちを取り巻く社会や環境が、目まぐるしく変化し、医療技術も日進月歩という状況の中で、医院建築の在り方にも大きな影響を及ぼしています。
かつては、医療効率のみを中心とした建物が主流でしたが、最近ではイメージやサービスを重視した患者の立場で考えられた建物が要求されるようになってきました。
最近、「癒しの環境」という言葉がよく使われています。それは、アメリカにおいて「良好な療養環境は、患者の治療を早める」という発想に基づいた最近の研究によるもので、その事実が徐々に明らかにされています。
クリニックには、機能性や充実した設備が重要になりますが、果たしてそれだけで良いのでしょうか?
そこには、心身共に傷ついた患者がやって来ます。
癒しの環境づくりには、患者にとっての不安を和らげ、快適で、暖かい雰囲気のある空間づくりというハード面の要素と、そこで患者を迎えるドクターやスタッフから感じられる雰囲気づくりのソフト面の要素が考えられます。
私たちは、ドクターといろいろなお話をします。
その中で、ドクターの診療に対する考えを聞き、整理を行い、それを明確に医院建築に反映させていきます。
そして周辺の環境やまちなみとの関係も考えあわせた上で、私たちは、「癒しの空間」をつくりたいと考えています。私たちが培ってきた専門知識や、技術、経験が少しでもお役に立てればと思っております。
またすでにクリニックを開業されている方でも、建物や設備の老朽化、耐震性能、医療技術に伴うスペース不足など、現在の診療所で問題を抱え、悩みがある方が多くおられると思います。
ただ建物を取り壊し、新しく建築するのではなく、古くなったクリニック・診療所の持つ様々な問題点を改修し、新たに付加価値を加えることで、時代に沿ったクリニックに再生する「医院再生/Medical Renovation」という取り組みも行っております。
コンサルティングの段階で、入念に調査、打ち合せを行うことで、改修工事中でも診療を行うことができ、医院側への経済的な負担を減らすこともできます。ぜひお気軽にご相談ください。
株式会社古田建築設計事務所 古田 充さんのクリニック・設計事例
画像 | 建物の名称 | 紹介文 |
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ささき整形外科クリニック | 明るく地域の顔となる診療所となるよう、待合室・リハビリ室の採光に気を使い、大きな窓を取った一方、庇をより深くすることで、冷房暖房の負荷の低減を狙っている。また整形外科という診療科目で全ての人が利用しやすいようユニバーサルなデザインを心掛けた。 | |
近江眼科・内科 | 内科の一部は残るため、そのイメージを残しながらも壊さないように、また新しくなる部分での変化を求められた。自然の風合いを好むクライアントに対し、全体をイメージ付けるルーバーの選定には気を使い、デザイン・耐久性・耐候性・難燃性に優れた人工木材のルーバーを使用した。 | |
うえだ皮フ科クリニック | 美容皮膚科にも力を入れていくことから、女性が好む清潔感、ホテルのような落ち着きのある高級感を求められた。外観は皮膚の柔らかさを表現するため、漆喰を用いた。待合室は間接照明を用い柔らかい光による空間の広がり、奥行き感を演出し、夜間は昼とは違った落ち着き感のある空間としている。 | |
溝口内科 | クライアントは、私たちの過去の設計事例をいくつかご覧になっており、そのイメージからシンプルかつモダンな建物を要望されたため、出来るだけプリミティブな形態と素材の選択により、建物を形作った。 | |
中山クリニック | 外来部門である1階部分を重点的にプラン改修し、車寄せ・風除室を設け、暗く古いイメージのある玄関部分を明るくすっきりした形に変更、それに伴う周囲の整備を行なうことが主な要件であった。 |
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