儀式のあり方と空間との関係性を考えた教会・建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤さん
教会は宗派による違い、教会独自の特徴を調べて、儀式のあり方と空間との関係性を考えて設計することが重要です。
教会について建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤さんに伺いました。
貴社が教会をてがけたきっかけを教えて下さい
たまたま町並みを見て歩いていた時に、木造モダニズム建築を発見し、中を案内していただきました。
その折に、建て直すべきか補修すべきか、意見を求められたのがきっかけです。
地方ではモダニズム建築を木造で建てた例があり、その貴重な例の一つであることをお話したことが、元々あった愛着心に響いたのかもしれません。
教会とチャペルの違いを教えて下さい
私自身信者ではないので、少々無責任な説明になりますが、一応耳学問程度の知識で説明させていただきます。
また、教会といえば一般的にはキリスト教の教会を言いますので、その前提でお話しします。
キリスト教は概ね、新教(プロテスタント)、旧教(カソリック)、(東方)正教会(オーソドックス)の3つに分類されます。
正教はあまりなじみがないかもしれませんが、ロシア正教、ギリシア正教、ルーマニア正教、エジプトのコプト教など、国や地域によって分かれています。
カトリックの場合は、礼拝堂(小さな教会)<聖堂<大聖堂、と区別されていて、イタリア語では、それぞれChiesa<Cattedrale<Duomo (英語ではたぶん、Church<Cathedral<Dome) と呼ばれています。
所在する聖職者が、司祭(神父)<司教<大司教、ということだろうと思います。
一方プロテスタントはこのように明瞭な階級はないようです。
司祭にあたるのが牧師ですが、司祭とは異なり結婚してもよく、基本的には神に対して一般の信者と同格で聖職者ではなく教職者と呼ばれるようです。
そこで質問に対する回答ですが、教会という名称はすべての教会堂建築のことを総称するもので、礼拝堂は礼拝をする部屋、または礼拝をするための小さな建築(ほぼ一室空間)、のことを指すようです。
どちらも新教旧教の違いを超える一般的な呼称で、建築様式や格式を定めるものではないようです。
教会の設計で気をつけている点を教えて下さい
まず、上記の3種類の違い、宗派による違い、依頼された教会独自の特徴を調べて、儀式のあり方と空間との関係性を考えます。
形式を重んじる場合と、合理性を追求する場合など、いろいろありますので。
宗派によって教会の形なども違ってくるのですか?
上記の3種類の宗教では礼拝のあり方がまったく異なり、必要とされる室や空間、装飾のあり方など異なります。
その下に位置する宗派による違いはさまざまであり、よくわかりません。
特に新教の場合は自由度が高いです。
土の教会は改装+増築ですが、新築も引き受けていただけますか?
土の教会とは別に、新築の教会(RC造)を担当したこともありますので、問題なくお引き受けします。
土の教会は土壁を採用していますが、その理由を教えて下さい
宗教的な理由ではなく、合理的な理由です。
同宗派で他の地区の教会が木造+ラスモルタル式だったのですが、築50年程度で壁が剥離していました。
木造なら土壁の方が長持ちすることを伝えました。
また土壁のもつ断熱性、蓄熱性、調湿性、放射熱の特性、音に対する特性(重さによる低音域の遮音性と反射音の柔らかさなど)を説明し、モルタルやコンクリートとの比較を説明しました。
信者の皆さんで議論した結果、土壁となりました。
この地域には良質の土が採れ、周囲には多くの土壁建築がまだ残っていて、信者の多くの方が土壁の良さを既によくご存じでしたので、私の話をすんなり理解していただけた、という感じです。
土壁の住宅なども設計していただけますか?
もちろんです。
チャペルの設計もしていただけますか?
もちろんです。
信者ではない、という欠点はありますが、逆に他の宗教との比較をしながら当宗派の特徴を見いだすことができると思います。
近隣住民への説明会にも協力していただけますか?
もちろんです。
教会を建てたいのですが、なにから始めたらよいかわからない方の相談にも応じていただけますか?
もちろんです。
これからどんな教会をてがけてみたいですか?
教会はもともと信者が集まって協力しながら建てたという経緯がありますので、形式にとらわれず、全員参加型で設計と工事を進める、設計者はその仲間の一人、とう作り方をしたいです。
施工についても、セルフビルド、半セルフビルド、などを採用できればもっと面白くなります。
教会建築の歴史と変遷、そして現在の教会建築について教えて下さい
カトリックの建築は、時代に応じて様式が変化して来ました。
簡単に言うと、バシリカ形式→ロマネスク様式→ゴシック様式(ラテン十字型)→ルネッサンス式(代表例が集中式)→ここから先はリバイバルと折衷様式、という感じです。
なぜか日本では、カトリック・プロテスタントの別なく、教会建築の基本がゴシック様式だと誤解される人が多いようです。
アーチとステンドグラスへの憧れが明治時代に染み付いたのかもしれませんが、これは誤りです。
まずはこの偏見から解き放たれるところがスタートになると思います。
過去を安易に模倣することは、まず避けるべきことです。
一方、正教会系は多くが集中式(ギリシア十字型とも呼ばれる)で統一されて「ぶれない」ように見受けられます。
集中式の元祖はアヤソフィアなのですが、オスマントルコ支配下時代には大モスクとなってイスラム教寺院の原型の一つとなっている点はとても興味深い事実です。
つまり正教会系の教会堂と、モスクの一部はその原型に同じルーツを持つ、という事実です。
他の宗教建築にも興味があるそうですね
イスラム教のモスクにもたいへん興味を持っています。
両宗教は同じ一神教でいわば親戚同士のようなもの。ちなみに、イエスはユダヤ教徒でユダヤ教の改革者であり、ムハンマドは一神教の改革者です。
古典的なキリスト教教会の多くが祭壇にむかって長い縦長長方形ですが、モスクは祭壇(ミフラーブ)に向かって横長です。
縦長は階層を生み出し、横長は神に対して皆平等となります。
ルネッサンスには宗教改革によって新教が誕生しましたが、カトリック内部でも建築改革がおこり、モスクと同じ集中式が採用され、平等な空間が模索されました。
詳細は省略しますが、モスクには空間の多様性を展開できる要素が多くあります。
イスラム教徒の人口は多く、近い将来日本にも多くのモスクが必要になると思っています。
建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤さんの教会・設計事例
画像 | 建物の名称 | 紹介文 |
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土の教会 | 地元の木材による伝統構法の手法を用いた建築です。 建具はすべて木製です。 |
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