選ばれるサービス付き高齢者向け住宅を実現・株式会社ヨシダデザインワークショップ 吉田明弘さん


 
これからは入居者がサービス付き高齢者向け住宅を選ぶ時代がやってきます。
これからの時代を生き残る施設として、豊かな住環境や周辺環境に配慮した「選ばれるサービス付き高齢者向け住宅」を実現する必要があります。 
 
サービス付き高齢者向け住宅について株式会社ヨシダデザインワークショップ 吉田明弘さんに伺いました。
 

お話を伺った建築家

 

ユーザー 株式会社ヨシダデザインワークショップ 吉田明弘 の写真
東京都文京区本駒込5−2−5フローラ本駒込101
03-6902-0108

サービス付き高齢者向け住宅とはなんですか?

 
民間事業者などによって運営され、都道府県単位で認可・登録された賃貸住宅です。
登録には必要な条件(部屋の広さはバリアフリーへの対応など)があり、安心して生活することができます。
また、自立あるいは軽度の要介護状態の単身高齢者・高齢者夫婦・高齢者親子世帯 が安否確認・生活相談などのサービスなどを受けながら安心して暮らせる住まいです。
 
一般的な賃貸住宅よりも高齢者が生活支援を受けることで住みやすく、借 りやすい施設でもあります。
賃貸借方式の施設が多いので、入居時に支払う敷金の返還を受けやすいメリットや、他の介護施設と比較して選択肢が 豊富なサービス付き高齢者向け住宅を選ぶことで、住み慣れた地域に住み続けやすくなるというメリットもあります。
 
複合施設として、24時間介護・看護事業所などを併設している施設では介 護・医療・生活支援など手厚いサービスを受けることができます。
国が高齢者向け住宅の安定供給を目指して、建設費の1/10、改修費の1/3または18平 方メートル以上の部屋の戸数×100万円のうち金額が低額のほうの補助を受けることが可能です。
 

 

貴社がサービス付き高齢者向け住宅を手がけるようになったきっかけがあれば教えてください。

 
以前から高齢者福祉施設(グループホーム、ケアハウス、特別養護老人んホーム、ショートステイ など)の実績があり、医療福祉建築賞を受賞していたことから、横浜の若竹大寿会様から指名を受けて青葉区に「わかたけの杜」を設計監理させていただきました。
 

 

サービス付き高齢者向け住宅を設計する上で注意している点を教えて下さい。

 
私は、高齢者住宅という特別な意識をではなく一般的な住宅と変わらない目線で設計しています。
 
サ高住は介護度の低い健常なかたがたの住まいですので、若い方々と同じように快適でデザイン性の優れた施設に設計することが大切です。
高齢者に必要なバリアフリーであるとか、サービス面は当然のこととしてどの施設でのクリアーするべき条件がございますが、実際施設間の競争が激しくなってきておりますので、利用者様から選ばれる「美しいデザイン」の施設を設計することを心がけております。
 

実際に住む高齢者のために配慮している点があったら教えて下さい。

 

1.「可変性」

 
入居された時点では健康であっても、生活をしていくうちに次第に介助や介護が必要になってきます。
また、同居しているパートナーがお亡くなりになり、お一人になることも想定されます。
 
高齢者住宅は短いライフサイクルで劇的に生活スタイルが変わっていくことが大きな特徴です。
設計において特に配慮している点は「住戸に可変性を持たせる」ことです。
「わかたけの杜」の50㎡タイプでは、可動間仕切りと可動家具によってワンルーム~2LDKまでの自由なプランの変更を可能にしております。
 

↑可変性のある住戸
 

2.「見る見られる関係」

 
私はこれまで「見る見られる関係」「気配が伝わる空間」を最も重要なテーマとして取り組んでまいりました。
高齢者施設には視覚的、心理的に自然や人が 触れ合える可能性を建築が用意することが必要だと考えています。
 
都市における高齢者の孤立や孤独死に対して「見守り」の重要性を説く風潮がありますが、や や一方向的で押し付けがましいものを感じます。
一方「見る見られる関係」や「気配が伝わる空間」は古来より下町の町家や長屋の路地裏に代表されるようなプ ライバシーを確保しつつ緩やかに気配が伝わる関係を見直し、現代建築に持ち込む試みです。
 

3.「差別化」

 
これまでの集合住宅は画一的で、外部から「我が家」を認識することはできません。
私は入居される方が「我が家」が認識できるよう住戸ごとに仕上げや色を変えたり、建物の形状を「ズレや分節」によって住戸毎の視認性を高めることでより愛着が持てる施設を目指しています。
 

↑住戸ごとに仕上げの違う外観
 

4.「バリアフリーの視線」

 
イスや車椅子に配慮したキッチンやトイレ、介助者に配慮した浴槽形状、必要な場所に必要な手すり、段差のない 計画、非常時のコールシステム、介護ベットを基準にした寸法体系など、これまで培ったノウハウを駆使して生活に配慮した設計をしていますが、「すべてをバリアフリーにする」は無いと考えています。
これからは老化の進行を遅らせる介護予防が重要です。
 
坂のある漁師町に驚くほど足腰が丈夫でお元気な高齢者がいらっしゃいます。
ある程度の段差や動作などのバリアーを残し、日々の生活の中で訓練になるようにすることも必要です。
通常の建築家が設計する豊かな空間を作りながらも、「配慮の眼差し」を持って設計することが可能です。
 

施設で働く職員のために配慮している点があったら教えて下さい。

 
厚生労働省の推計では現在介護職員の不足が2025年度時点で30万人に達すると言われています。
低賃金など処遇の改善策や資格要件の緩和などが検討され ていますが、私たちは過去の経験で良い建物は働く人たちにも感謝され、働けることの幸せを感じていただいている場面をいくつも見てまいりました。
美しい環 境は職員を引き寄せる吸引力が少なからずあります。
私はバックヤードにおけるスタッフの環境に特に配慮し、家具の配置やレイアウトに使いやすくるす工夫を凝らすことで、働く人たちの立場に立った提案をしています。
 

なにから始めたらよいかわからない・・・という方の相談にも 乗っていただけますか?

 
可能です。
これまで社会福祉法人などの事業者からの仕事が多いのですが、新規参入も方と一から作り出すことに大変興味を持っております。
また、補助金入手のお手伝いなどもできます。
 

設計事例には他の施設との複合施設が多いようですが、複合施設のメリットは何でしょうか?

 
サービス付き高齢者住宅は施設や立地、サービスの良し悪しによって入居者様が思うように集まらず、運営自体が難しくなっている事例があります。
これは一般的なマンション同様に「利用者が選ぶ」時代になってきていることを示しています。
過去のように造れば埋まる時代ではないのです。
 
そこで24時間居宅介護事業所や看護事業所、在宅療養支援診療所、認知症デイサービス、認知症グループホームなどを複合させることで、事業者にとっては将来の利用者を囲うことになり、利用者にとっては将来の介護度の増加にたいして受け皿があるメリットとなります。
 

 

フロイデ彦島は海岸沿いの大変起伏に富んだ複雑な敷地条件だったようですがどのような点に配慮されたのでしょうか?

 
当初事業者は7層程度の高層建築を考えていました。
理由は、土地を入試した際に平坦に造成されている場所が一部だったからです。
景勝地で、周囲に2階建て住宅は隣接する場所に高い建物を建てる事は、景観上も近隣への影響からも問題があると考えました。
 
そこで私は建物を低層(3階建)とし、低層によって拡大した建築面積に対して3つの中庭をつくることで通風と最高と快適性を確保しました。
建築面積の増大は尾根と谷による複雑な傾斜地において2棟に分割して両棟を渡り廊下で繋ぐ必要性に迫られましたが、特殊な構造解析と基礎及び施工技術によって解決いたしました。
建物は大変複雑なデザインに見えますが、以上のように複雑な敷地や景観・環境・機能に配慮した結果としてのデザイン的な帰結なのです。
 

 

ハートホーム宮野は交通量の多い道路に挟まれた変形旗竿地だったそうですが、どのような工夫をされたのでしょうか?

 
前面道路に対して既存建物の背後に回り込む旗竿状である敷地形状に対し、軸を45度傾け雁行させることで敷地境界や隣接建物間にほどよい空地(緑地)をつくり出しました。
また、日本の書院建築に通じる雁行する平面形状は、近隣に対して威圧感を低減する効果があります。
 
内部空間は雁行平面によってこの種の施設に多い老人施 設然とした単調さを回避し、個室間のプライバシーへの配慮が可能となりました。
空間が中庭や廊下を介して刻々と変化する木造らしい内部空間です。
 
1フロアに3ユニット(個室9室+共用リビング+トイレ)が施設運営上効率が良いためフロア面積が大きくなりました。
このため、室内に自然の光と風を送り込み、季節の移ろいが感じら れる装置として3つの中庭を設けました。
中庭の配置によって、交流があまりない ユニット間(上下階においても)において中庭という中 間領域を介することでお互いに気配を感じる構成とすることができました。
 

↑ハートホーム宮野の中庭
 

わかたけの杜は間取りが変化できるそうですが、どのような仕組みになっているのでしょうか?

 
住宅における日本古来の田の字プランの有効性について論じ、実践した事例は枚挙に いとまがありません。
ここで重視した点は介護度と入居人数の変化に対応したフレキシビリテ ィの実現です。
 
例えば夫婦の一方が要介護となった場合、一方が亡くなって一人なっ てしまった場合、トイレが近いリビングに介護ベッドが進出してくる場合など、高齢者 住宅特有の生活形態の変化です。
可動化できない要素(玄関・浴室・洗面トイレ)を コアとして片側に寄せ、残ったスペースは可動間仕切りによる自由な間取りの選択を可 能にしました。
 
また、重要なことは寝室の間仕切を可動収納とした点にあります。
分割可能な可動収納 (押入とクローゼット)の位置と向きの選択によって、納戸からワンルームまで収納位 置に拘束されない多様なプラン変更が可能です。
 
短いライフサイクルで生活形態が変わる 高齢者住宅こそADL「日常生活動作」が低下してもQOL『生活の質』が低下を招ねかずに済むプランの可変性が必要と考えました。
また、リビングはフルハイトサッシによって南北に 風と光が通り抜けていきますが、寝室では小さめな開口によって閉塞性を与えています。
可動 間仕切りは乳白ツインカーボによる框戸とすることで光と気配を伝えます。
 

補助金申請の手続きなども手伝っていただけるのですか?

 
可能です。
 

サービス付き高齢者向け住宅を建てたい方になにかアドバイスがあればお願いします。

 
これからは入居者が施設を選ぶ時代がやってきます。
 
私は設計した「わかたけの杜」は工事中にすべての部屋が予約で埋まってしまいましたが、選定理由で多かったご意見が「他にこんな施設がないから」でした。
高齢者といってもお元気な方たちが入居することを考えると、「デザインが良い建物が良い」「友達を呼びたい」「永く住みたい」「便利な方が良い」「サービスが充実していた方が良い」など、求められる条件は一般マンションとなんら変わりがありません。
 
これまでいかにも「施設のような」建物が多く建てられてきました。
これからの時代を生き残る施設として、豊かな住環境や周辺環境に配慮した「選ばれるサービス付き高齢者向け住宅」を是非実現していただきたいと思います。
 

高齢者施設以外の設計も引き受けていただけますか?

 
私は高齢者施設を多く設計してまいりましたが、「高齢者住宅」という定義自体おかしなものです。本来 (一般のマンション)(高齢者住宅) であるべきだと考えております。
通常の集合住宅やマンションではじめから高齢者住宅を意識した設計をしておけば、将来サービス付き高齢者向け住宅への移行も可能でしょう。
不動産としてニーズに応えることもできます。
 
ご希望の方以外でも通常の集合住宅の物件でのご相談もお待ちしております。
実績にありますように私の実績は比較的大きな施設が多いのですが、当然戸建て住宅も設計可能ですし、是非やってみたいのです。
これまでの高齢者福祉施設の経験が注目されがちですが、ぜひ「高齢者施設とは思えないデザイン」に注目していただきたいのです。
高齢者施設の専門家などという型にはまらない懐の広さを是非ご評価いただけれな幸いです。
 

株式会社ヨシダデザインワークショップ 吉田明弘さんのサービス付き高齢者向け住宅・設計事例

  

画像 建物の名称 紹介文
わかたけの杜 クリニック棟(診療所 訪問看護・介護事業所 サービス付き高齢者向け住宅)

サービス付き高齢者向け住宅(ワンルーム20㎡4戸、1DK40㎡4戸)、24時間対応在宅療養支援診療所、24時間訪問介護・看護事業所を併設した複合建築物です。

ハートホーム宮野

「ハートホーム宮野」はサービス付き高齢者住宅、特別養護老人ホーム、ショートステイの機能を持つ高齢者住宅の複合建築です。

ハートホーム平川(ケアハウス グループホーム デイサービスステーション)

山口市内に建てたケアハウス、グループホーム、デイサービスステーションの複合建築物です。私自身の以降の高齢者施設設計の原点となるアイデアが詰まっています。敷地が農業用水で分断されていたことから、行政と水利権者への説明会を開いて移動させるとこができました。これにかかる申請業務も私達で行いまいした。

わかたけの杜東棟(サービス付き高齢者向け住宅)

「わかたけの杜」神奈川県青葉区の緑豊かな保存樹林に隣接した、全66戸の戸建て風のサービス付き高齢者住宅です。工事中に全ての住戸が予約で埋まる大盛況でした。

フロイデ彦島(ケアハウス、グループホーム、デイサービスステーション)

フロイデ彦島はグループホーム(18室2ユニット)とケア付き老人ホーム(個室48室6ユニット、内2室が夫婦対応)の居住施設に、地域施設(デイサービスセンター、地域交流スペース)を複合させた施設です。