●建物の紹介文(依頼者のお悩み・ご希望を叶えるために工夫した点・採用した建材など):
老後に備えてご自宅に隣接した敷地に、終の棲家(ついのすみか)となる「離れ」を造りたいというご依頼でした。これから年齢を重ねていくご夫婦の生活を支えるコンパクトな平面、 定年後の新しい生活に活力を与え、ゆったりと呼吸できるような空間を目指しました。
東側の少したかくなった隣地に既に母屋が建っていたため、午前中も建物の影にならない位置に和室やキッチンを配置し、東の窓から朝日が入るよう工夫しました。また、東側のハイサイドライトからダイニングコーナーに差し込む朝日が、一日の始まりの時間を活気づけるようにと意図しました。
その一方で、リビングダイニングに午後も暖かい陽が差し込むようにする方法として、中心に立つ壁を斜め45°の角度に傾けることを考えました。光を反射するよう白い塗装を施したこの壁には、空間を広く見せる効果もある他、いくつもの役割を持たせています。寝室との間を緩やかに仕切り「居場所を造る壁」であり、冬は暖房用の温水パネルを敷設した「暖かい壁」、裏に廻った寝室側には、壁厚を利用し造り付けた「本棚の壁」に、地震に耐える「構造壁」としても有効に働きます。
脱衣室からトイレ、キッチンと水廻りは動線を繋げ、回遊できるようにしました。温水器置き場がある脱衣室は、ほんのり暖かく、洗濯物も良く乾きます。
基礎断熱仕様。壁は高性能24kgGWを充填のうえ、付加断熱GWボード50ミリ、天井は330ミリのブローイングを行っています。窓廻りはLow-Eガラスと樹脂サッシの仕様ですが、それでもリビングの大きな窓は、大きなガラス面からの下降冷気(コールドドラフト)が予想されたため、その解決法として足下廻りのみタイル敷きとして、温水床暖房パネルを敷き込みました。「雪で濡れた手袋や、靴を暖めるのにも便利です」と予想外の使い方でも好評を頂けました。
極力近くの材料を使うことを考え、内部は、あらわしの柱梁、壁面と天井を北海道産のトドマツ材で統一しました。トドマツは軽やかで清潔感のある樹種なので、家全体が優しい雰囲気に仕上がったのではないかと思います。木の持つ柔らかさや暖かみが足裏を通して感じられるように、床には厚さ38ミリの道南杉を、デッキ用の材にサネ加工を施して使用しています。キッチンや洗面台などの家具や階段の手すりは、針葉樹の中では比較的傷がつきにくく、年を経るごとに赤みがかっていくカラマツで統一しています。外壁は、トドマツの下見板をグレーで塗装。玄関廻りにはレッドシダーを使うなど、様々な樹種の持ち味を引き出しながら、色や風合いの変化を楽しめる家になればと考えました。