がけ条例による制限を逆手に取ってポジティブな計画・Kawakatsu Design 川勝崇道さん
がけ条例によって建築制限を受けることがありますが、制限を逆手に取ってポジティブな計画をすることも可能です。
がけ条例についてKawakatsu Design 川勝崇道さんに伺いました。
がけ条例とはどのような条例ですか?
一定の高さを超える崖や既存の擁壁に近接する土地(崖の上部または下部の土地)に建物を建築する場合に、擁壁を新設したり、既存の擁壁を改修しなければならない等の制限が条例によって定められており、これを「がけ条例」と呼んでいます。
崖が崩れてしまった場合、崖の上部に建物があれば崖とともに地盤ごと崩れますし、下部にあれば崖崩れの土砂などによって押しつぶされてしまいます。
こういった危険を回避するために各自治体がそれぞれ条例として対策を定めており、条例の詳細は、自治体によって異なるため、必ず確認をしなければなりません。
擁壁を設けるとなると、場合によっては何百万円も費用がかかることもあるため、建設予定の敷地ががけ条例に該当するかどうかなどは、土地の検討の段階で調べておいた方が良いと思います。
がけ条例にかかると擁壁が必要になるのですか?
必ずしも必要とは限りません。
各自治体の条例により詳細は異なりますが、例えば東京都の場合だと、 建物の端から崖の上端または下端までの水平距離が崖の高さの2倍の距離よりも離れた場所に建築する場合は、擁壁の新設は不要です。
また、斜面の勾配が30度以下の崖や、堅固な地盤を切って斜面としている崖など、安全上支障がない崖の場合には、擁壁を新設する必要はありません。
さらに、崖や既存の擁壁が構造耐力上支障がないものであると認められた場合は崖崩れがが起きないと考えられるので、擁壁の新設は必要ありませんし、崖の下に建築する場合に、建物の主要構造部が鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造である時は、たとえ崖崩れが起きたとしても、建物自体が土砂を食い止めるとして、擁壁を新設しなくても良いとされています。
安息角とはなんですか?
そのまま何もしなくても崩れない傾斜角を「安息角」と呼び、 日本の土地で最も一般的な粘性(粘土分の多い粘性)の土で成り立っている土地では、その角度は30度とされています。
そのため、斜面の勾配が30度を超える傾斜地に建築する場合は、何らかの措置が必要になります。
がけ条例にはどのような緩和規定があるのでしょうか?
崖の上に建物を建てることで、土に新たな荷重が加わり、既存の崖が現状で保っているバランスが失われて、崖が崩れてしまう危険があります。
それを防ぐために、安全性の基準をクリアした擁壁を新設した上で、建物を建てる必要がありますが、先にも述べた通り、崖や既存の擁壁の状態により、新たに擁壁を新設することなく、建物を建てることも可能です。
この他に、崖の上に建てる場合の緩和規定として、崖の下端から安息角の角度で立ち上げた斜めの線(安息角線)よりも下の地盤に届く高さまで、建物の基礎を深くすれば、 擁壁を新設せずに崖の近くに建物を建てることも出来ます。
また、深基礎にしない場合は、基礎の下に杭を打ち、その杭の下端を安息角線より下の地盤に届く高さまで深くすれば、深基礎の場合と同様、擁壁を新設せずに崖の近くに建物を建てることが出来ます。
要するに、安息角線より上の部分の土は崩れてしまう危険性がありますが、基礎や杭を安息角線より下の地盤に届く高さまで食い込ませておくことで、たとえ崖が崩れてしまっても、その建物が一緒に倒壊しないような対策が、この緩和規定の内容になります。
青梅のガレージハウスの場合はがけ条例をどのようにクリアしたのですか?
敷地は、大きな丘状になったエリアを40数年前に住宅地として造成した一角でした。
地山と呼ばれる自然の地盤に対して、土を削ったり盛ったりしながらそれぞれの区画を平らに造成してありました。
敷地に対して、北側は2m以上の崖になっており、反対の南側は前面道路とほぼ同じ高さで、「がけ」には該当しなかったので、がけ条例の対策が必要だったのは北側でした。
この崖は、玉石を積んだ擁壁仕上になっていましたが、構造上安全を示せるようなものではなかったため、当該計画の方で安全を確保する必要がありました。
当該計画では、工期やコストを考慮して、崖がある方の建物の外壁をコンクリート壁とすることで、崖崩れから建物を守る対策を講じました。
南側はがけ条例にかかりませんので、できるだけそちら側に建物を寄せて、北側の方はできるだけ崖から距離を取ることで、外壁のコンクリート壁の高さを少しでも低くできるように配置しました。
また、玉石の擁壁自体は見た目が悪いものではなかったので、その擁壁から出来るだけ建物を離すことで出来た隙間空間を当該計画の玄関までのアプローチとして活かした計画とすることにより、がけ条例にかかる崖があることが、逆に豊かな外部空間を作るきっかけにすることができたと思います。
現在は緑も植えられ、より豊かなアプローチ空間になっています。
↑青梅のガレージハウスのアプローチ
日野の家はがけ条例をどのようにクリアしたのですか?
この敷地は、多摩川支流の河川敷に向けて開けた南側斜面に位置するものでした。
2階レベルでは遠くに広がる景色と日射しがとても心地よく感じられる場所です。
青梅のガレージハウスとは違い、敷地の北側と南側の両方が崖条例にかかる崖となっており、北側は上部にある隣地の擁壁、南側は当該計画の建築範囲を支える敷地内にある擁壁でしたが、どちらも構造上安全を示せるようなものではなかったため、当該計画の方で安全を確保する必要がありました。
当該計画でも、工期やコストを考慮して、前述の緩和規定を利用した計画としました。
具体的には北側は、青梅のガレージハウス同様に、基礎となるコンクリート壁を高く作り、南側は、安息角線よりも下の地盤まで基礎を深く入れるようにしています。
北側の方は、青梅のガレージハウスのように隣地擁壁と距離を取るのが難しかったため、擁壁側にある程度寄っていますが、高くした基礎の天端が1階屋内に人が立った時の目線よりも上ぐらいだったので、基礎の天端と1階部分の天井との間に出来た隙間をハイサイドライト(高い位置にある窓)として利用することで、がけ条例の緩和規定として設けなければならなかった高基礎を、あえて積極的にデザインとして活かしました。
1階部分の半分ぐらいを、このハイサイドライトを取り入れた仕様にしています。
このように計画することで、がけ条例による制限を逆手に取った、ポジティブな計画になったと考えています。
PHOTO:Ippei Shinzawa
がけ条例にかかる土地の購入前の相談にのっていただけますか?
相談に乗ることは可能です。
敷地情報を教えて頂ければ、まず一般的な判断をお伝えすることができます。
また、ここまでお答えしてきたように、行政によって判断が分かれるような場合もあり得ますので、必要に応じて役所等に相談に行くこともあります。
がけ条例にかかる土地に建つ建物のリフォームも引き受けていただけますか?
お引き受けできると思います。
工事規模によって、がけ条例に対する対応が必要になる場合と必要にならない場合が出てくると思います。
増築などを含むような規模になりますと、建築確認という申請をしなければならない可能性がありますので、がけ条例に適合したものにする必要が出てくると思います。
この場合は、既存建物を残しつつ、崖部分に対して擁壁を建てるなどの措置をとらなければいけないので、コスト的には大きなプロジェクトになってしまうのではないかと思います。
また、工事規模が小さければ、がけ条例に対する措置をとる必要がない可能性が高いので、問題なく工事をすることができると思います。
どちらにしても既存建物を利用するようなプロジェクトの場合は、既存建物の状態によって進め方が大きく違ってきますので、まずはご相談いただいて、ケースごとに詳細な調査が必要です。
がけ条例にかかる土地を購入しようとしている方にアドバイスがありましたらお願いします。
ご購入を検討されている土地に存在している崖または擁壁がある場合は、まずその崖が安全性を証明できるものかどうかの確認が必要です。
隣接地に建物が建てられたとき、あるいは購入検討されている土地を造成するときに、がけ条例に適合するような構造耐力上支障がない擁壁が計画されていた場合は、既にがけ条例に適合した状態ですので、その分の費用を見なくても自由に計画することができます。
また、コスト的にもプランの自由度的にも一番良いのは、擁壁を計画しなければならないような崖に近い場所に建物を建てざるを得ない敷地ではなく、崖上であっても崖下であっても、崖の上端または下端からの水平距離が崖の高さの2倍以上離れた距離に建物を建てられるような環境でしょう。
ただ、がけ条例がかかるような敷地は、規制がかかるため、購入にあたり二の足を踏んでしまうかもしれませんが、崖となっているような敷地は見晴らしが良かったり、住環境としてはとても面白い計画を考えることができる可能性も高いので、是非ご相談いただきたいと思います。
Kawakatsu Design 川勝崇道さんのがけ条例・設計事例
画像 | 建物の名称 | 紹介文 |
---|---|---|
青梅のガレージハウス | 40年程前に開発された住宅地に建つ住宅である。 | |
日野の家 | 多摩川の支流のひとつ、浅川を臨む敷地に建つ住宅である。 |
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