古民家・築古物件を民泊や店舗に再生するリノベーション・堤由匡建築設計工作室 堤由匡さん

古民家や築古の建物を民泊や店舗にリノベーションして活かす取り組みは、地域に残る建物を壊さずに新しい使い方へつなげる方法として関心を集めています。
一方で、用途変更にともなって新たに求められる建築基準法や消防法の条件、古い建物ならではの耐震性・断熱性の課題を、既存の魅力を損なわずにどう解決するかが計画の鍵になります。
古い建物を活かすリノベーションについて、国内外で古民家や築古物件の改修を数多く手がける堤由匡建築設計工作室 堤由匡さんに伺いました。
お話を伺った建築家
東京都板橋区舟渡2丁目34-30 ヒルズセントポール401 090-4600-4732 |
貴社が古い建物を民泊や店舗にリノベーションする仕事を手がけるようになったきっかけを教えてください。

特に古い建物の改修を専門にしようと考えて始めたわけではなく、もともとは依頼された仕事の中にそうした案件があった、というのが実際のところです。
ただ、雲南省で古民家を改修したリゾートホテルが完成し、国内外で高く評価されたことをきっかけに、古い建物を活かす仕事について声をかけていただく機会が増えました。
古民家や築古物件を民泊にリノベーションする場合、建築基準法や消防法の面で特に注意すべき点はどこですか?
まず重要なのは、既存建物の法的な状態と、用途変更によって新たに求められる条件を早い段階で整理することです。
建築基準法上の用途、接道、避難、採光、構造、防火などに加え、宿泊用途では消防設備や避難経路の条件が大きく影響します。
古い建物では図面が残っていなかったり、増改築の履歴が不明な場合もあるため、現地調査と行政への事前確認を行い、どこまで既存を活かせるかを判断することが重要です。
古い建物ならではの耐震性・断熱性の課題に、どう向き合っていますか?

当然、予算とのバランスはありますが、耐震性と断熱性は優先度を高く考えています。
古い建物では、意匠的に魅力のある梁や土壁などを残したい一方で、現代の使い方に必要な安全性や温熱環境も確保しなければなりません。
そのため、既存の良さを一律に隠したり取り替えたりするのではなく、構造上必要な箇所は補強し、断熱についても床・壁・屋根など効果の大きい部分を中心に改善する、という考え方で進めています。
民泊リノベーションの費用は、新築や通常のリフォームと比べてどう変わってきますか?
一概には比較できません。
既存を利用することで躯体工事を減らせる場合もありますが、解体して初めて分かる劣化や、構造補強、断熱改修などに費用がかかることがあります。
特に古い建物は事前にすべてを把握することが難しいため、新築よりも予備費を見込んでおくことが重要です。
単純に「古い建物を使うから安い」とは考えない方がよいと思います。
新築に比べれば費用を抑えられるケースは多いものの、昨今の建築費の高騰や建築基準法の厳格化もあり、以前ほど大きなコストメリットが出ないケースも増えています。
「昭和54年の架構」では、道路側に店舗・庭側に民泊という構成にされていますが、この用途の分け方はどのように決めましたか?

↑昭和54年の架構
既存建物の条件と、それぞれの用途に求められる性格から決めています。
店舗は道路からの視認性や入りやすさが重要なので道路側に置き、宿泊部分は庭に面した、より落ち着いた環境を活かしています。
新しい用途を無理に既存建物へ押し込むのではなく、もともとの建物や敷地が持っている性格に合わせて配置することで、自然なゾーニングになるように考えました。
同じ建物の中に「店舗」と「宿泊」という2つの用途を共存させる際、動線やプライバシーの面でどんな工夫をしていますか?
利用者の動線が不用意に交差しないことを基本にしています。
店舗は道路側から直接アクセスし、宿泊者は庭側を中心に過ごせるようにすることで、それぞれの領域を分けています。
一方で、完全に別々の建物のように切り離すのではなく、既存の架構や空間のつながりを感じられるようにし、用途は分けながら建築としては一体感が残るようにしています。
土壁や無垢の梁など、古い建材の断熱性能・意匠性を活かしながら現代の性能基準を満たす際のコツを教えてください。

古い材料そのものに、現在求められる性能をすべて期待するのではなく、それぞれの特性を見極めて活かすことが重要だと考えています。
土壁は一定の断熱性能が期待できるため、状態が良ければ積極的に残しています。
一方で、無垢の梁などは質感や時間の蓄積という意匠的な価値を活かしつつ、必要に応じて床下・屋根・天井裏・壁面などで断熱性能を補います。
既存の良さを残しながら、性能が不足する部分を別の方法で補うという考え方です。
貴社は中国・杭州でも古い民家を飲食店にリノベーションされていますが、日本と海外での「古い建物の活かし方」に違いはありますか?

↑船底天井の日本食ファストフード店
基本的な考え方に大きな違いはありませんが、法規や施工技術、気候風土は国によって異なります。
中国ではリノベーションに関する法的な制約が日本ほど厳格ではなく、地域によっては断熱補強も必ずしも同じように求められません。
一方で、古い建物や材料を再利用しようとする意識は、日本より強いと感じることがあります。
そうした地域ごとの条件や価値観に合わせて、活かし方を考えることが重要です。
「見せる構造」(架構を隠さずデザインとして魅せる)という考え方がありましたが、これはどういう発想から生まれたのですか?
古い建物では、柱や梁などの架構そのものに、その建物がつくられた時代の考え方や痕跡が残っています。
それを新しい仕上げで覆ってしまうより、必要な補強を行ったうえで見せることで、既存建物の特徴を空間の魅力に変えられると考えています。
構造を装飾として付け加えるのではなく、もともとそこにあるものを建築の主要な表現として扱う、という考え方です。
民泊や店舗併用のリノベーションを考えている方に、依頼前に準備しておくとよいことがあればアドバイスをお願いします。

まず、建物に関する資料をできるだけ集めておくことです。
既存図面、確認申請関係書類、登記資料、過去の改修履歴などがあると、初期判断がかなりしやすくなります。
そのうえで、希望する用途、必要な客室数や店舗規模、予算、開業希望時期を整理しておくとよいと思います。
ただし、古い建物では調査して初めて分かることも多いため、最初から計画を固定しすぎず、既存建物の状態を見ながら柔軟に考えることも大切です。
貴社に設計・監理を依頼できるエリアを教えてください(国内・海外どちらも対応可能でしょうか)。
日本全国に対応しています。
また、海外案件についても対応可能です。
海外では現地の建築家、構造・設備エンジニア、施工者などと協働しながら、現地法規や施工条件に合わせて進めています。
堤由匡建築設計工作室 堤由匡さんのリノベーション・設計事例
| 画像 | 建物の名称 | 紹介文 |
|---|---|---|
| | 螺旋階段の別荘リノベーション | 地下一階、地上4階、ロフトの大規模な別荘を改築するプロジェクト。既存の状態は階段室とエレベータがコーナーに固められ、完全に上下の関係が分断されていた。そこで上下階の関係性、つまりここで過ごす家族の関係性をより強く繋げる事を目標に計画を進めた。 |
| | 青普麗江白沙リトリート | 玉龍雪山を間近に望む白沙村に、現地の五花石の外壁が美しいナシ族の民家を増改築したリゾートホテルを計画する。 |
| | 通州の別荘 居住エリア | 灰色を基調としたミニマルな空間の中に、壁面と天井を照らす間接照明をバランスよく配置し、暖かい光に包まれる心地よい空間としました。 |
| | 晴れ着の丸昌 横浜店 | 既存建物の、低い天井を感じさせないように、細かく天井を折り重ね、伸びやかな広がりを作り出した。 |
| | 大望路の家 | 海外のマンションのリノベーションプロジェクト。閉鎖型の厨房をオープンキッチンとし、広すぎたダイニングスペースの一部を書斎とすることで、心地よい開放性とスケール感を持つ空間とした。 |
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