壁を傾けて光を反射・増幅させる


 
住宅密集地は、利便性の高いエリアにあることが多い半面、日当たりが悪く室内が暗い、隣家からの視線が気になるといったデメリットがあります。
多くの場合、天窓を設けて光を取り入れますが、今回ご紹介する大阪市鶴見区のM様邸は、天窓に加えて傾斜壁を巧みに利用して光を室内に反射させることで明るさを確保しました。
どのような構造になっているのか、設計した平野玲以さんにうかがいました。

お話を伺った建築家

 

ユーザー 平野玲以建築設計事務所 平野玲以 の写真
豊中市上新田4-16-1-608
06-6155-6890

東、西、南側が住宅に囲われた敷地

 
M様邸はもともと、2世帯が棟割りになった住宅の東半分で、隣家は一足早く3階建てに建て替えていました。
東側と南側も2階建て住宅。開けているのは道路に面した北側だけでした。
事前調査で前の建物に入ったとき、真っ暗で驚いたといいます。
 
敷地面積は66平方メートル。
建蔽率が80%ではあったものの、建て替えに当たっては西側の住宅と切り離して隣家との間を50センチ離したため、建築スペースは間口4・8メートル、奥行き9メートルになりました。
 

 

↑間取り図
 

2階リビングが吹き抜けで解放感

 
M様邸ご夫婦と幼児2人の4人家族。
希望であった1台分の車庫と、子供の成長にともなって必要となるスペースを確保するために、3階建てにすることはすぐに決まりました。

最も光が乏しい1階は、車庫とバス・洗面所を設けると4畳程度のスペースが残されるだけ。ここはM様が希望された、趣味の音楽が聴ける部屋として活用しました。

2階はLDKと南側にご夫婦の寝室。3階には子ども部屋と、子どもたちが思い思いに勉強や遊びに使えるスタディコーナーを設けました。
子ども部屋とスタディコーナーを除くリビングから階段部分は吹き抜けになっているため、天井高は5・8メートルあり、解放感があります。
さらに日当たりのいい南東角は物干し用のテラスにしました。
 

 

傾斜壁が天窓からの光を反射して、室内がぐんと明るく

 
東西の壁には、隣家の視線もあって窓はつくれません。
このため、明り取りにまず考えたのが天窓です。
北側は道路斜線制限があり、屋根は45度ほどの傾斜になりました。
南側の屋根ははこれよりも緩やかな傾斜で、この最上部に長さ3メートル弱、幅35センチの天窓を設けました。
 
これでかなりの光は取り込めるのですが、さらに工夫をしたのが、天窓からの光が当たる2階リビングの北側の幅約3・3メートル、高さ約2メートルの壁を、上部が外側にせり出す形で光を迎えるように傾斜させたことです。
外からは、北側屋根の下端を頂点に、くの字型にまがった形になります。

しかも、傾斜壁は反射率の高い白色ペンキで塗装したため、天窓から差し込んだ光が当たると反射して、窓のないキッチンにも光が届くのです。
傾斜壁の下には高さ50センチの窓、3階のスタディコーナーの北端にも、非常時の進入口を兼ねた幅96センチ、高さ1・2メートルの窓を設けたため、こちらからも光を取り入れることができます。
 

 

断面図

↑断面図
 

傾斜壁のデメリット

 
傾斜壁は、家具が置きにくくなるというデメリットがあります。
一方で、建物全体に変化をつけられ、圧迫感も軽減してくれます。
 
平野さんも住宅に傾斜壁を設けたのは初めてだそうですが、
「開発によってきれいに整地された土地と違い、住宅密集地のように土地の環境が厳しいと、かえってそれが手掛かりとなり、一石二鳥のアイデアが湧いてくるものです」
と話します。
 

床面ラインを斜めにして奥行きを感じるように

 
天窓と傾斜壁の組み合わせだけでなく、M様邸にはほかにも工夫が凝らされています。
その一つが、3階のスタディコーナーを北側に行くほど狭くなるよう三角形に近い形にしたこと。
斜めにすることで、遠近法の原理で奥行きを感じると言います。
  
また、階段の手すりとステップの間、スタディコーナーの仕切りを桟や壁にせずに白いネットでふさぎました。
小さなお子様の安全を考えたためですが、これによりリビングから3階の子供たちの様子がうかがえ、2階と3階の一体感が増す効果もありました。
 

キッチンにカウンターテーブル

 
3階の床面の斜めのラインに沿って2階のキッチンに幅75センチのカウンターテーブルを設けました。
このテーブルをはさんで家族4人がゆったり食事できますし、準備や片付けも簡単。料理をしながら子どもの勉強をみることもできます。
大きなダイニングテーブルも必要なく、2階の共用スペースを広く使うことが可能になりました。
 

 

「いるだけで気持ちいい家」と、施主様も大満足

 
平野さんは、中学生の時に、インテリアデザイナーだった父親に連れて行ってもらった安藤忠雄展をきっかけに建築家を志し、安藤忠雄建築研究所で10年間修業して独立した経歴をお持ちです。
「社会における建築家の役割というのは、単なるデザイナーではなく、環境にそぐう建物を考えるなど社会に形として受け入れられ、残るものをつくることだと考えています」
と言う平野さん。
 
そのうえで施主様が気に入ってくれれば言うことがなく、M様から「家にいるだけで気持ちいい」という言葉を聞いたのがなによりの喜びだったと話しています。
  

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