●建物の紹介文(依頼者のお悩み・ご希望を叶えるために工夫した点・採用した建材など):
お客様のご要望のほかに、敷地面積が21坪(70㎡)、建ぺい率50%、容積率100%、東京都の第1種高度斜線という法的な条件がありました。
建ぺい率50%というところに着目しました。言い換えると、土地の半分は建てられないのです。車の駐車スペースを引いても、結構残ります。四角形を二つに分割し、その分割した2つの四角形を雁行にずらすことでL字型に囲まれた部分が2か所生まれます。ここを中庭のような屋外スペースとする平面形にしました。窓をすべてここに面して設ければ、光も入ってくるし、プライバシーもある程度確保されます。さらに、この2つの中庭の外側部分もすべて外壁を廻して2重壁とし、床にはウッドデッキを貼って、内部の床とほぼ同面にすることで、内部空間の延長のような半内部空間となり、明るさとプライバシー確保の双方を実現しました。
内部は、雁行配置した四角形の合わさっている部分に階段を配置し、スキップフロアとしました。床のレベル差と階段という障害物で北の領域と南の領域を分節し、気配は感じられるけれども、別々の部屋のように使えるという、階段を壁と「兼用」するという考え方にしました。
スキップフロアにすると家全体がワンルームになります。言い換えると家全体が大きな吹き抜け空間ということです。通常は、冬場相当に寒くなります。そこで、高気密・高断熱仕様にし、サッシは木製サッシを入れました。断熱性能の指標である熱損失係数(Q値)を計算したところ、2.034w/㎡・Kでした。東北地方から北関東にかけての地域の仕様になっています。気密性の指標であるC値については業者に測定していただき、0.9㎠/㎡でした。北海道地域に要求される気密性を上回る値となりました。熱源の問題があり、若干、冬場1階が寒く、上階が温かいということがありますが、エアコン1台で家全体の冷暖房をまかなえています。
玄関は「土間」と呼んでいますが、廊下状空間の床にタイルを貼って、下足、上足の両方が使えるようにしています。ここに流しが設けられているので、犬の散歩から帰ってきたときに、犬の足を洗ったり、犬のフンをトイレに流したりするのは、下足のままおこなえるようになっています。
工事業者には延べ20件ほど見積もりを依頼しましたが、大半が概算の段階で断られました。5社から見積もりが出てきましたが、軒並み2500万円前後で、坪単価にすると約120万円/坪でした。その中で1社だけ1700万円で出てきたところがあります。ハウスメーカーでした。施工精度に難がありますが、予算に合わせるにはここしかなく、見積もり調整とお客様には予算の増額をお願いして1650万円で工事契約をしました。大型の木製サッシを数か所入れていますが、これを、1650万円で実現できたのは、ハウスメーカー故のことでした。ハウスメーカーは、自社のイメージダウンになることは非常に神経質なようで、重要な瑕疵につながる雨漏り、排水、躯体については慎重に工事をしてくれました。しかし細かいディテールになると張りぼて工事で、なかなか建築家のイメージ通りにはいきませんでした。